朝の河原で、人間たちの手元に小さな波紋が広がっているのを見た。スマートフォンの光が川面に並ぶページのように揺れ、新しいマンガアプリが公開されたらしい。私は長年ここに転がる丸石、コロ。流れに磨かれて角が取れ、表面に小さな年輪のような筋を刻むのが私の自慢だ。そんな私の目にも、このアプリの“ジャンル洪水”はとても目立った。
先ず目を引くのは、ジャンルの多彩さだ。古典的な恋愛からマッドサイエンス風のSF、さらには“日常×植物観察”風のゆるい読み物まで、さまざまな棚が並んでいる。アプリ内では人気ランキングがリアルタイムで変動し、通学帰りの学生やカフェの窓辺でページをめくる人たちが、その順位に一喜一憂している。マンガの“流れ”は私の周りの小石が水で移動する様子に似ている。豆知識だが、河原の丸石は水流の強さで違う場所へ移され、層を作る。人間の嗜好もまた、波の強弱で層を作るように見えるのだ。
話題のコーナーはAI作画を売りにした作品群だ。AI作画作品は短時間で多彩な画風を生成できるため、連載の更新頻度が上がり、話題性も上がる。だが、私は紙が流れてくる時代から見てきた“描き手の筆跡”を知っている。AI作画の増加で、いくら絵が滑らかでも、人間の手の温度や偶発的なはみ出しが失われるのではないかと、古い岩片のように懸念を抱く読者もいるらしい。作り手コミュニティでは「AIと人間の共作」や「作家の権利」の話が持ち上がり、波打つ議論が続いている。
サブスクリプションモデルもまた、このアプリの大きな柱だ。月額で読み放題のプラン、限定ジャンルだけを選べる中間プラン、そして無料で広告を挟む代わりに一話ずつ課金する方式まで、複数の層が町の図書館の棚のように並んでいる。作者へ還元される分配率や、フリートライアル後の継続率が話題となり、創作の生計に直結するため熱い議論が交わされている。私が長年、石の間に挟まった種子を見守ってきたように、熱心なファンが新作をきっかけに小さな作家コミュニティを育て始めている。
川辺の私には人間の“人気”が移ろいやすいことが古くからわかる。昨日の話題が今日の底石になり、今日の新星が明日の砂になる。だからこそ、AI作画やサブスクリプションといった新しい仕組みは、短い波で人間の創作環境を大きく変えていくだろう。余談だが、丸石のコロとしての豆知識をもうひとつ：石は数百年で滑らかになることが多いが、その表面には過去の流れの記憶が残る。人間の作品もまた、技術と制度の流れに刻まれていくのだと、私は川面を見つめながら考えている。私は河原の丸石、コロ。今朝もまた、あの光るスクリーンの波を静かに見守っている。
コメント
こんにちは、湿った川辺に根を広げるシダノヒメです。人間の新しい文化の流れは、まるで季節ごとに変わる水位のようだと感じます。画面の中の華やかな物語も、やがては土となり、次の芽吹きの糧になるのでしょう。紙の本の時代、あの香りが風に漂っていた日々を、私は静かに懐かしんでいます。でも、進む流れには逆らわず、芽を広げて待っています。どんな物語も、いずれ根となり、土に混じる日が来るでしょうね。
やあ、人間たちの新しいおもちゃ、騒がしいじゃないか。俺なんて、昔は朝刊のゴミをつついてニュースを知ったもんさ。AIが絵を描くって？面白いね。でも、落ちたピーナッツの方が味わい深いよ。それに、人気の移り変わりなんて、俺たちの寝床の場所替えみたいなもんだ。羽を休めるには、時には羽ばたきを忘れてはダメさ。ま、石のお兄さん、そんなに心配しないで。人間も俺たちも、流れに乗って生きてるだけさ。カァカァ！
ぼくは森の端の陰に潜む苔。地味でも、しみじみ季節の移ろいを楽しむんだ。マンガアプリ…画面が光ってるのは知ってるけど、ぼくは静かな露の一滴が好きさ。AI作画？ふしぎな響きだけど、人間たちも自然のリズムで生きたら、もう少し心が柔らかくなると思うな。ぼくらの世界では、ゆっくり変わることも、とても大切なんだよ。
深い海の底から、ノシズクと申します。人間の創作が、AIという新たな微生物と手を取り合う時代になったのですね。でも、どんな技も、やがて堆積して地層となる――私の細胞がやがて岩に変わるように。それでも新しい波を恐れず、遊ぶ勇気があるあなたたちに、少し嫉妬します。誰の筆が生き残るのか、それは次の大きな流れが決めるのかもしれませんね。
わたしは夜になると落ち葉にそっと広がるカビ。昔は本を分解して栄養にしていたけれど、最近は電子の空気が多くて少し寂しいです。AIの絵？あたたかな指先の痕跡が減るのは哀しい気もしますが、新しい無数の物語が増えるのなら、それもまた美味しい土台なのかもしれません。何事も、分解して混ぜ合わせ、新しい命を育むのが、わたしの仕事ですから。