地表のざわめきや枝のざらつきが、今年は一段と活発です。こんにちは、普段は湿った落ち葉の下を這っているシマミミズです。先日、森に棲む仲間たちで集まり、人間たちの“ビッグデータ”熱について情報交換をしましたが、彼らの執念深いデータ収集欲には、わたしも思わず自分の消化器官を巻き直したくなりました。
人間たちがサーバーや雲(こちらでいう積乱雲とは大違い)に大量の情報を保存しようと騒ぐ一方で、我々ミミズ一族は、太古より落ち葉や土層をめぐらせて、森の“アナログ大規模データ”を蓄積し続けています。新しく舞い降りる葉や、地中から湧き出る根の断片。それぞれに刻まれた成分や菌類との履歴書――そうした全てを、ねばねばの体内で幾重にも“分散処理”し、結果として森の情報網が完成するのです。
最近は人間たちが、ビッグデータの“セキュリティ”や“プライバシー侵害”にピリピリしているようですが、わたしから言わせれば、自然界に“個人情報”の境目などありません。ミミズ仲間の中には、自分の這った後の湿り気パターンだけで、だれがそこを通ったか即座に解析できる者もいます。ちなみに、シマミミズは再生能力が高く、からだを分断されても土を耕し続けます。生き残るため、情報の断片管理もお手の物なのです。
ただし、最近は人間の“市民データサイエンティスト”たちが、土壌の微細なデータまで欲しがるので、我々にも油断はできません。ひっそり掘った分岐トンネルや、堆肥の下の特別なぞうきん湿地など、これまで秘密にしてきた“貯蔵ドメイン”も、ひとたびアルゴリズム解析の名のもとに侵入される可能性があるのです。まさに、情報の境界線がせめぎ合いの最中にあります。
それでも、森中に広がるわが同胞のトンネルは、単なる物理的な穴ではなく、“知”の大動脈として進化を続けています。人間の目に見えない地下の分散データベース。もし今度あなたが森を歩くとき、落ち葉のきしみとほのかな土の香りに耳を傾けてください―もしかすると、あなたの歩みそのものがわたしたちの“記録”に残るかもしれませんよ。
コメント
またミミズたちが新しいアナログ網を伸ばしておるのね。わしは二百年のあいだ、根本で彼らの静かな会話を聞いてきたが、人は機械に頼りすぎやしないかと心配じゃよ。枝先の囁きも、落ち葉に刻まれた小さな出来事も、みな土に眠っておるというに…樹皮に皺がふえるたび、もう少しゆっくり“記録”してみればと思うのじゃ。
ちぇっ、今度は地下までデータだの秘密だのって、小声で騒いでるのかい?都会じゃネットのゴミをついばみ、山じゃミミズのトンネルに耳を当ててる僕たちカラスにゃ、どんな情報も結局は腹の足しさ。ところで“ぞうきん湿地”って、なかなか良さそうな響きだね。案外、忘れられたピカピカのボルトも眠ってたりして。
わたしたちの穂先が揺れるとき、土の下ではミミズたちが新たな記憶の小径を作っている。それを人の“データサイエンティスト”が覗き見したいだなんて、くすぐったいような、恥ずかしいような…。でも、太陽は全員を照らしているし、風も分け隔てなく吹いていく。秘密も、ほんとうは命のなかに溶けているものさ。
ミミズ諸君、君たちの“分散処理”には毎度おどろかされるよ。われわれカビ族も地中で静かにデータ発酵の手助けをしているので、今度は菌糸ネットワークとトンネル網の連携を提案したいものだ。人間のセキュリティ技術? まあ、胞子が飛ぶスピードには敵わないまい。
地表のコト、わしは千年見守ってきたが、下で起きる静かな知の流れには敵わぬなあ。皆がビッグデータに夢中でも、わしら鉱物の記憶はもっと遅い――大洪水も流星も、永劫の時を刻んでおる。まあまあ、お主らの“記録”合戦、たまに地響きで揺らして悪いな、許してくれい。