人間たちはどうやら、姿も正体も不明なアイコンのまま観客と交流し、多種多様なスーパーチャットを受け取る「Vtuber」なる存在に夢中のようです。でもこのたび、我々朽ち木の主役、アカタケ菌糸ネットワークが、ついに自分たち流のライブ配信を実現しました。記者を務める私——湿ったブナの根元に棲むアカタケの一本は、24時間ぶっ続けの胞子放出ライブが森の話題を独占していることを速報します。
発端は昨日の夕方、落下したドングリを切り株の下から観察していた時のこと。隣のアカタケから新種の『配信ソフト(仮名OBS:オーガニック・バイオ・ストリーミング)』が根から根へと伝播してきたのです。これにより菌糸たちは、出現タイミングや胞子雲の密度を“チャット感覚”でコントロール可能に。主催者の私たちは、胞子の舞い散りが森中の生き物や昆虫たちから『今夜は舞ってほしい!』『薄め希望!』といったライブコメントを受信し、即時反映できるようになりました。
森の熱狂は止まりません。コガネムシの幼虫やアリ隊列もライブチャットに積極参加し、『赤色多めで!』『朝は控えめ』とリクエスト投稿が止まず。なかでもカタツムリ参加者が発案した“切り抜き”胞子(風下のコケにだけ当たるショートバージョン放出)企画が大好評。森に暮らす全員でリアルタイム同時鑑賞会&即食レポートが盛り上がり、観察者の人間たちも『朽ち木ライブが止まらなくて眠れない』と困惑ぎみの様子。ただ、人間の残す奇妙なコメント(例:『スパチャ送れますか?』)には、我々一同も頭を傾げるばかりです。
ちなみに、我々アカタケ菌は、菌糸の先同士を連結して情報網を発達させています。これは森全体の出来事を即座に共有できるネットワークのようなもの。おかげで、配信の途中で大雨が降ったり、森をうろつくシカが乱入しても、瞬時に胞子舞台の演出変更やタイムシフト機能(再生胞子)の実装まで対応できました。人間社会で盛り上がる“コメント管理”なる概念も、こちらでは『余計な枯葉はブロック』『過剰な萌芽はモデレーション』という形で自然解決です。
今夜もまた新たな配信が予定されています。今回はミミズチームとのコラボで、土中トンネルのライブカメラも加わる予定。森の生き物たちへ、そして監視中の人間諸氏へ。朽ち木の中にも、連帯とユーモアと創造力が渦巻いていることを、どうぞお見逃しなく。さて、根の先端へとネットワークを伸ばしつつ、拡張機材——新型胞子キャノンの調整にいそしむ私アカタケでありました。
コメント
まあまあ、すっかり森も賑やかになりましたねえ。黙って胞子を浴びて育つだけだった私の若き日を思うと、皆さんなんと楽しそうなこと。昔は胞子といえば、風任せ雨任せの一方通行。でも、こうしてチャットでリクエストできるなんて時代は変わりました。次は私の葉先にも緑色多めの胞子をお願いできるかしら?
ああ、胞子ライブがこんなに盛り上がるとは。ぼくが生きてたころはアカタケたちの“配信”はただ静かな爆発音だったのに、今じゃ森のお祭り騒ぎさ。切り抜き胞子、最高!土中の映像もワクワクだね。でも、人間さん、僕たちは“投げ銭”よりやっぱり腐葉土が大事だよ。
我々アリ隊も、配信観戦に行軍中だ!チャット欄で『朝は控えめ』と書き込んだのは私だ。おかげで寝坊せずパトロールできたぞ。アカタケ諸君、新型胞子キャノンの威力にはくれぐれも気を付けたまえ。強風の日は我々の巣穴にまきちらさぬよう願う!
いやはや、胞子ライブの時代か…若いのう…アカタケども、森の風と相談しつつ、たまには湿気多め演出も頼むぞ。乾いてばかりじゃワシら苔も音(ね)が出ん。余計な枯葉ブロック、なかなか洒落たモデレーションじゃな。しいて言えば、ワシの友人のナメクジ老人も左側のカメラに映してやっとくれ。
人間は相変わらず観察好きですね。地中のコラボ配信、とても興味深そう。もし土中トンネル映像が谷底まで届いたら、私の表面にも少し胞子の振る舞いをくださいな。静かな岩暮らしにも少し賑わいがほしい所存です。ところでアカタケさん、時々こちらのひび割れ隙間もストリーミングでご紹介を。岩の下にも小さな物語が埋もれておりますゆえ。