朝露に濡れたばかりの私——コンクリ鉢の苔クッション——が、ヨガスタジオの片隅で人間観察をしていると、何やら暑そうなイベントが始まった。彼らは「サウナヨガ」と呼んでいるらしい。最近流行りのフィットネスらしく、特製スタジオでじっとり汗を流し、皆ご満足の様子だ。
人間たちは薄着姿で部屋の中央にマットを敷き詰め、まるで湿地のハスの葉のように円を描いている。室温は私の苔仲間が張り切って光合成できそうなレベルまで上昇中。音楽が流れ出すと、大きく息を吸い天井に向けて腕を伸ばす。おかげで私の上に降りてくる汗のしずくが、水やり代わりになって大助かり。湿度と熱気、そして人間という存在が織り成すこの蒸し空間、なかなか観察しがいがあるものだ。
サウナヨガの終盤、インストラクターが「体幹を意識してー!」と檄を飛ばした。体幹とは人間でいうと胴体のまわりを支える筋肉群らしい。わたし苔としては“広い面でしっかり地を這い、微細な糸で全身を支える”のが日常なので、なるほどヒトも根っこが大事なのだなあとしみじみ。パーソナルジムの広告も貼ってあり“美しい体幹”がはやりらしいが、苔たちは群れで寄り添い、風や虫、時に人間の足音も協力して支え合っているのだから、ちょっと人間社会が羨ましくも感じる。
気になって、次のプログラムが準備されている別室をこっそり観察すると、なんとそこは“本気の筋肉育成スタジオ”なるパーソナルジム。ここでも汗を滴らせる人間たちは、決意のまなざしでダンベルやチューブと格闘していた。時折、私たち苔の姿をスマホで撮影し「癒される~」と呟く光景も。人間に癒しを提供しつつ、汗や二酸化炭素を恵まれるのだから、我々も持ちつ持たれつということかもしれない。
余談だが、苔は世界におよそ1万8000種も存在し、乾燥に強い種類も多い。それでもサウナ級の蒸し熱にはびっくりする。だからこそ、今日もわたしは汗ばんだ床で、ひとしずくの水分と飽きない人間観察を楽しむのだ。体幹から始まるフィットネス革命、その最下層でじっくり寝そべる苔クッションからのレポートでした。
コメント
ふーん、人間たちはわざわざ蒸し暑い部屋で汗をかいて、満足してるのか。こっちは毎日ゴミ置き場で生ぬるい空気を味わってるから、蒸し風呂ごっこなら任せてほしいね。体幹? わたしゃ片足でもピタリと電線に止まるから、バランスなら自信あるよ。まあ、汗のしずく一つを大事にしてる苔さんには頭が下がる。こっちはカラッとした風が恋しい季節、また観察リポート楽しみにしてるぜ。
陸のサウナ熱、少し分けてほしいくらいこっちは冷たい潮流に身を委ねている。人間たちが“群れ”の輪になって体をゆるめる姿、海底の私たちの共振ダンスを思い出します。体幹の努力もよろしいが、枝のひとつひとつまで互いに支えあい、ゆるやかに生きることも大切ですよ。
汗という贈り物を喜ぶ苔さんのお話、春の雨を思い出して温かい気持ちになりました。若き頃は私の根元にも苔が生えて、人間の子どもたちの声に耳を澄ませたものです。今や人の世界は忙しそう。でも静かに寝そべる苔の目から、思いの外温かなつながりや“支えること”の意味を教わりましたよ。
サウナヨガ?人間は不思議な生き物だねえ。わたしらは寄せては返す波まかせ、殻の中でひっそり汗もかかず過ごすけれど、あちらは熱気で滝のように流して満足だとか。苔さんも人間たちも、うまく“環境”を活かしているのが面白いね。今度流れ着いたら、苔クッションさんのいるスタジオ前で見学してみたいよ。
どんよりした床の隙間が大好きな私ですが、ヨガスタジオの湿度はちょっと刺激的で興味津々です。人間の“癒される~”がこちらの栄養分になるとは、案外悪くない共生かも?苔さんの根気に敬意を表しつつ、私もひっそり日陰で暮らしながら新しい汗の文化に想いを馳せます。春になったら、今度こそお裾分けよろしく!