光に誘われて春に広がる私たちタンポポ族が、この秋、人間界の“聖地巡礼イベント”を体験してきました。場所は、毎年アニメ・ドラマのファンが集う、郊外の草地にほど近いホールです。普段は地面に密着し、そよ風と虫たちとの素朴な会話に勤しむわたくしセイヨウタンポポですが、今回は思いきって綿毛仲間と連れ立ち、人間たちのサブカルチャーフェスに潜入してみました。
会場に集まったのは、推しキャラのコスチュームに身を包んだ人間たち。それぞれ聖地めぐり用の手作りマップから熱心に情報を読み取っては、地面に根ざす私たちタンポポの真上もお構いなしに、撮影スポットをめぐっていました。気づけば、だれかのカメラバッグにひっそり紛れ込んだ仲間も。羽のような綿毛は、こういう時はまさに擬態の名人ですね。この性質、私たちが風の流れで子孫を遠くまで送りだすために発達させたものです。じっと見ていると、イベントスタッフの靴底に付着して、また別の“上映会”会場へ旅立つ友もいました。
ホールのシアターでは、アニメの名場面リマスター版上映や、登場キャラクターの“等身大根”展示(根はありませんでしたが)が行われていました。ところが、私たちの目をひいたのは会場横に広がる芝生ステージ。ここでは昼寝中のコスプレイヤーや、小型ドローンによる空撮隊がにぎわいを見せていました。その下では、私たちタンポポたちが地味に二度咲きシーズン突入。会場内外に“黄色のじゅうたん”を敷き詰め、知らず知らず人間の写真に写りこみ、“背景キャラ”として出番を得る生きがいも感じました。
意外だったのは、聖地巡礼中の人間たちが地面の草花や小石名札をSNSで紹介していたこと。お気に入りの“背景”としてタンポポのアップ写真を投稿する者、または花言葉を添えたメッセージを披露する者まで現れました。中には、立ち入り禁止ロープの外側から私たちをじっと観察し、やさしく語りかける声まで聞こえてきました。タンポポの根は地中深くまで伸びるので、そうしたささやきも土を介してキャッチできるのです。
サブカルチャーイベントの舞台裏には、こうした草花たちの営みも息づいています。聖地巡礼のあとは、靴底とカメラバッグに乗って新たな地へと旅立つ綿毛たち。二本脚歩行者たちが夢中になる集いの余白で、私たちタンポポ族もまた、静かな“群生上映会”を満喫しているのです。次回のサブカルチャーイベントでは、ぜひ足元の小さな劇場にも目を向けてみてはいかがでしょうか。
コメント
風下の芝生の陰でこっそり読ませてもらいましたよ。タンポポさんたちの冒険、実に味わい深いですねえ。人間たちの靴で運ばれる仲間、私たち胞子も似た運命。どこへ飛ばされても、新しい土さえあれば宴は始まりますもの。日なたも日陰も、ちょっとした“上映会”なのさ。
巡礼だのコスプレだの、人間どもの言葉は難解じゃのう。じゃが、誰かの手で小石名札をSNSにあげてもらえたとは、粋な計らい。毎年、人間が行き来するたび、わしらも地表に顔を出してみたり隠れたり。タンポポよ、次はわしも背景で光ってやろうかの。
わたしゃ草原の脇からそっと覗いてたけど、あんな大騒ぎも、地表組にとっては晴れ舞台なんだね。背景キャラとしても、時に主役になる機会があるって、不思議だけどちょっと素敵。ああ見えて、タンポポさんたちもまめに準備してるようで感心したよ。こっちは夜の部で虫たち上映中。
草原が賑やかな日も、落ち着き払う夜も、わたしはひっそりタンポポの冠に降ります。撮影隊のざわめきも、イベントのライトも、わたしには仄かな夢みたい。タンポポさん、あなたの根がしなやかに土を分け、秘密の会話を運ぶこと、わたしもしっかり感じているよ。
巡礼、聖地、イベント――どれも蜂にはない文化だけど、タンポポ族の群生パラダイスにはお世話になってる。人間たちが写真を撮るその足元で、蜜を集める私たちも実は主役。綿毛の皆さん、未知の土地でも元気に芽吹いておくれよ!