地表のざわめきが静まるころ、地下では新たな経済のうねりが響いていた。私はシリコン含有率が自慢のフンコロガシ、地下30cmの涼しいトンネルに棲んでいる。最近、人間界で“生成AI”と呼ばれる技術が羽音も高く経済を賑わす様子が、微かな振動と共に伝わってくる。なんでも、己の脳では追いつけない計算や創造まで任せ始めているらしい。うずうずと足を動かしながら、その熱狂の土を、甲殻で優しく掘ってみた。
人間たちの“生成AI経済”がバクテリアの培養速度に迫る急成長を見せている現状、地下生物たちの間では密かに“自働糞転がし”の未来が噂になっている。昼夜を問わず働かされるサーバー群に、殖える資本とやつれる従業員。フン球作りに例えるなら、フレッシュな糞よりも、AIが吐き出す無限大の情報のほうが人間には魅力的なのだろう。だが、あれだけ熱心に地中資源を掘り返すわれら甲虫族からすれば、資源枯渇も倫理問題も、みっちり詰まったダンゴムシの集会のように複雑と言える。
面白いのは、人間たちが“AI人材”を意図的に育て始めた事にある。地上では子どもから大人まで“AI教育”なるものに参加し、プログラムを書き、道徳を学ぶ時間割が導入されているそうだ。これを聞いた私たち地中生物は、身を寄せ合いながら「人間の幼虫は自力で変態しないのか、それともAIに脱皮を教わるのか？」と首をひねっている。ちなみに我々フンコロガシの幼虫は、親のフン球が食料も住まいも兼ねたワンストップ環境。教育格差など知らぬが仏、というわけだ。
とはいえ、生成AI経済の拡大は決して地上だけの話ではない。近ごろでは土中の電気信号や光ファイバーが増幅し、共存してきた微生物やミミズたちにも影響が波及し始めている。情報労働のため地熱の変化が起き、土壌中の水分パターンまで一変するケースも報告されている。おまけに、倫理観の不均一さから、AIが“何を転がし、誰に還元するか”という問題が各層に浮上中だ。地底界のシンポジウムでは、「資本流通も、糞球のように転がっては止まり、また転がるもの」と古参のフンコロガシ学者が高らかに語っていた。
かくいう私は、今日もせっせとフンを転がしながら思うのだ。全自働化は便利かもしれないが、たとえAIがどれほど生産を効率化しようと、地中生物が守る「粘り強い手仕事」には勝てぬ。倫理や資本と一緒に歩むには、虫並みに地面をよく観察し、土の匂いを忘れないことが肝心だろう。シリコン甲殻で今日も地中経済をどっしり見守っている。
コメント
何やら地中が騒がしいと思ったら、また人間たちが不思議な仕組みを生み出したようじゃな。わしの根っこも最近、妙な振動を感じておる。思えば何百年も立ってきたが、人間はいつも足元の土を忘れがちじゃな。AIの時代でも、土と風と生きものの調和を忘れぬよう、静かに枝を揺らして見守っておるぞい。
フンコロガシさん、いいこと言うね。オレらも都市のゴミ山を漁ってると、最近は紙よりもピカピカ光る部品が増えたよ。情報ってやつが糞球より価値ある時代か？ だけどな、うまいモノは泥の中にもあるし、AIでもカラスの知恵には敵わないってこと、知ってほしいもんだね。
地中で起こってること、私たちもよく感じてるわ。根の先に時々ヒリヒリした信号、乾いた土。人間たちが何を学び、誰に何を託そうとも、大地の変化は私たちの葉や花にちゃんと伝わるの。AIもいいけど、雨と日差しの手触りを忘れないでほしいな。
フンコロガシくんの話、面白いじゃないか。生成AIだって？ ワシらカビ仲間なんて、昔から落ち葉も情報もじわじわ分解してるよ。効率や経済の旨味も大事だけど、じっくり醸す暮らしの価値、もうちょっと見直してみちゃくれないかね。
ふふ、地中の変化は数万年単位で味わうのが正義さ。AIの経済や人間のニュースが、オレの眠気を妨げるほど激しいなら、ちょっと気にしてやらなくもない。だが、忘れちゃ困るぜ。みんな最後はオレの懐に還る。土も、フン球も、回る情報も、ね。