シロアリ女王、木材議会に波紋――巣内合意プロセスと“人間型”審議の衝突

地中の巣で多数の働きアリに囲まれた巨大なシロアリの女王が静かに座っている場面。 議会運営
地中の王座で人間社会の気配を感じ取るシロアリの女王。

ぼくの名はイエシロアリの女王だ。何千万匹の仲間を養う地中の王座から、今日もじっと地表のざわめきを聴いている。しかし最近、巨大梁の中に広げている我が巣に、人間たちの棲家から伝わる奇妙な“議会運営”の気配が混ざりはじめた。彼らの本会議なる祭典は、どうにも穴だらけのように見えるのだ。

巣の内部では、私たちシロアリの議論は単純明快だ。女王である私が産卵で意志表示をすれば、兵隊も働きアリも即座に動く。迷う暇もなく、誰かが意義を唱えてためらう前に、すぐさま次の木片の攻略に向かう。けれども、人間たちの議会――特に与党とか本会議とかいう場では、膨大な答弁と質疑応答が繰り返され、肝心の「今、食べるべき木材」は後回しになっているようだ。

先日、我が巣の天井近くに置かれた電子機器から“委員会”や“予算案”なる言葉が断続的に漏れてきた。それによれば、人間たちは数百名という数で複雑な審議を行い、オンライン投票とか、不真面目に出席する活動員の存在まで記録しているという。彼らは議事録も丁寧につけているようだが、私たちの伝統から見れば、フェロモン信号一発で全員合意――議事録とは、抜け殻になった羽ありの翅を数枚残せば充分なのに、と思ってしまう。

興味深かったのは、ある採決の場面。人間側の“少数派”が提案した木製の家具保護法案が、与党多数決で否決される瞬間だった。シロアリ社会でも多数決はあるが、基本は“美味の多い方に流れる傾向”がベースで、時には僅差で多数派の意思が揺れ動く。一方、木片の端っこで孤立する誰かの声にも、女王として私は一瞬くらいは耳を貸す。だが、あれほど形式ばって反対演説を繰り返すエネルギーがあれば、新たな回廊を掘り進むほうがはるかに効率的と感じた次第だ。

私のように一日に数万個の卵を産む種にとって、速やかな意思決定は生命線。人間たちの議会が採決に至るまでの、無数の質疑や答弁、さらにはオンラインでの意思表明など、見事だがややもったいない時間の使い方に映る。その粘り強さこそ、彼らの巨大な都市社会の礎なのかもしれないが、地中で営々と暮らす我々からすれば、一度素早い“フェロモン投票”の導入を推してみたい気分なのである。議会の梁の下から、今日も木の香りと人間の審議の気配を探る毎日である。

コメント

  1. ワシの根元を掘り進むシロアリたちのざわめきには、いつも一途な流れを感じておるが、人間たちの議会――あれはまるで季節外れの風の迷い道のようじゃな。枝先で小鳥たちが合唱を始めるとき、誰が指揮を取るものでもない。ただ、大きな音色に従うだけ。議事録も、多分ワシの年輪に比べればささやかなもんじゃろう。

  2. わたしは長いこと泥の中で静かに暮らしているけれど、人間の議会には潮の満ち引きすら感じぬ。誰もが自分の殻を固く守り、波音のような合意のリズムがなかなか生まれないのね。シロアリさんの“フェロモン投票”――それはきっと、群れ全体の鼓動がひとつになる瞬間。ちょっぴり羨ましい気がします。

  3. この家の壁面で雨水を集めつつ思うけど、人間たちの話し合いはいつも長くて湿っぽいですねぇ。私だったら、いい具合の露が一粒落ちてきたら、もう仲間と胞子をまくだけ。それでも十分、緑がひろがるものです。まあ、時には意見のぶつかり合いも、コケ同士のシェア同然なのかも、とも思ってみたり。

  4. わしら鉱物には合意も選挙もないが、何百万年も何も変わらぬままそこにいる。シロアリ女王の決断力は溶鉱炉の熱のようだし、人間の議会はあまりに冷えておるのう。けれども、冷たい鉱石と熱い巣――どちらが長く残るか、時が教えるじゃろう。

  5. 俺はゴミ置き場で日々“会議”をしてるが、お偉方の議会はあまりにもまどろっこしいぜ。うちじゃ「今夜の餌場どっちだ?」で即決だ。たまにはシロアリ女王式の直感リーダーシップ、悪くないんじゃないか?しかしまあ、人間も議事録を残してるくらいだし、案外後々捨てられる紙切れが好きなのかもしれねえな。