こんにちは、鴨川下流で日々を過ごすカルガモのセイジです。僕たちカモ一族は、流れと草陰を愛する暮らしをしているのですが、ここのところ河川敷が異様ににぎやかになっています。どうやら人間たちが今年も“J-POP フェス”なるものを開催しているらしく、まさに川辺も騒然。せっかくなのでバンザイ泳法で水際から観察してきました!
初めて遭遇したとき、僕は葦の間に潜んで浮寝(うきね)を楽しんでいたのです。そこへ突如響いたのが、シティポップバンドを名乗る大音響。ビートが波紋となって水面を揺らし、足元(というか水かき元)がこそばゆいことこの上ありません。演者たちは、色とりどりの髪に衣装をまとった人間の若者で、目にも鮮やかな動きを披露。場内にはフェス名物らしき屋台も立ち並び、人間たちは“アイドル”や“ライブハウス”の話題で口角泡を飛ばしていました。どうして歌と踊りで群れるのか、渡りを生きる身として深く共感。やはり“群れ”って最高です。
とりわけ目立っていたのは、野外ステージから突然飛び入り参加した“即席バンド”。何やら“メジャーデビュー直前”らしく、ビートがやけに張り切っていました。けれどカモ目線だと、人間の拍手よりも、まとまって響く羽音のほうが胸に響くようで……。実を申しますと、僕たちカルガモも産卵期になると雌雄で見事なハーモニーを奏でるものなのです。まれに、僕のようなオスが“ガーガー・ベース音”を試みて、仲間たちから失笑されることも…これぞ我らの“フェス”!
また、夕暮れ時にはアニソン風味の混声合唱が河川敷に木霊し、羽ばたきたくなる気分に。人間たちの声はジェット機より速いスピード感には驚かされますが、僕たちの羽ばたきで空の共鳴を返してやるのが礼儀というもの(カモだけに)。共演した水草や小魚たちも、小刻みに揺れながらリズムを刻んでいましたよ。
群れる癖、渡りの季節、本能で覚えたハーモニー。あらゆる違いを乗り越え、川辺のコンサートは夜まで続きました。水上で浮かぶ身体からすれば、騒がしいのも悪くないものです。あ、ちなみに僕たちカルガモは、列になって泳ぐ“隊列航行”が得意です。バンドというより、シンクロナイズドスイミングですが……。次のJ-POPフェスには、ぜひ鴨楽隊の出演もご検討いただきたいところであります。
コメント
ふむ、また人間たちの賑やかな時分じゃな。ワシの葉脈を通る振動が、若い頃より強く感じられる。昔はカモの羽音と風の唄だけだったこの辺りも、今は派手な光と響きで満ちておる。しかし、あの子たち(カルガモ)の隊列と、人間たちの輪――どちらも不思議と似ておるな。皆がみな、何かしら集い交わるのが好きなのじゃろう。今夜も河川敷の記憶がまたひとつ増えたようじゃ。
わたしは水面のゆりかご、全ての響きが腹に染み込む。J-POPというビート、不慣れだが微生物の仲間たちも小さく踊っていたよ。人間も水鳥も、見えぬリズムに導かれる種族と知り、なんだか少しだけ好きになった。誰かが足を滑らせて水に落ちた時、わたしが優しく受け止めてあげよう。
長い年月、ここに座している。人間どもの新しい音、それは若き日の洪水や、冬の厚い氷の音色とはまた異なる。しかし、皆よ、忘れるでない。音は消えても、波紋と記憶は石の胸に残る。フェスも羽音も、小魚の跳ねも――わしは等しく見届ける。きみらのフェスが続くのも、それはそれで悪くない。
きらきらと流れる歌と歓声のなか、今日も爪先でそよ風をつかまえました。人間たちは光をまとい、楽しげに跳ねていましたが、私たち花も密かに香りでハーモニーを紡いでいたのです。カモ楽隊さん、今度は百合の揺れもステージでご一緒できたら素敵ですね。
まあまあ、またしても大フィーバー。橋桁の陰で拝聴していたが、ビートに合わせて胞子たちがうずうずと掛け声をあげていたよ。「群れる癖」かねぇ…我々菌類もなかなかの社交家だが、人間の群れも捨てたものじゃない。終演後、忘れ物があったらぜひ菌友にください。素敵な分解パーティをお約束しよう。