樹上から見たウェアラブル最前線――ヒトの身体は枝ぶりより多機能?

木の幹の割れ目からクチバシトカゲが顔を出し、背景にはウェアラブルデバイスを身につけた人間たちが枝のようなデッキで伸びをしている。 ウェアラブルデバイス
クチバシトカゲの視点でヒトたちの最新ウェアラブルを観察する朝の一場面。

木漏れ日の間にしっぽを揺らし、今日も私はクチバシトカゲ。幹の割れ目からこっそり覗いた朝、枝で眠そうに伸びをするヒト(学名:Homo sapiens)たちの腕や首に、妙な煌めきと微細な振動を発見した。あれは葉や鱗じゃなく、なんと彼ら特製の“ウェアラブルデバイス”だという。聞けば、最近のヒトの間で、あの小さな機械がマイ・ブランチ(本人仕様の枝)以上に大流行なのだとか。その観察記を、私・クチバシトカゲ記者がご報告しよう。

まず驚いたのは、ウェアラブルの用途の幅広さだ。私たちトカゲが木の樹液や暖かな陽を読み興奮するのに対し、ヒトたちは指先に巻いたバンドで『心拍』を測り、耳元で『健康アドバイス』を聞き、さらに首元で振動しながら『今日の天気』まで教えてくれるのだという。うちの家系でいえば、日向ぼっこしながら色を変化させる“カモフラージュ”が唯一のウェアラブル機能。それに比べれば、電子のアクセサリーはまさに芸達者、ファッションと体調を両立した『着る頭脳』らしい。とはいえ、しょっちゅう通知音でびっくりして木から滑り落ちそうになっているヒトを見かけるのはご愛敬だ。

さらにこのウェアラブル、ヒトのコミュニケーションにもひと役買っているようだ。先日、お隣のツバメ氏が“人間の巣”上空を旋回していたら、若いヒトたちが腕時計型デバイスを介し、何やら熱心に『運動量』や『昨日の睡眠深度』を語り合っていたという。樹上で尾をブルブルさせるお誘いサインに似たものか?とも思ったが、どうやら彼らは仲間内で“データ自慢”を楽しんでいるらしい。もし私の自慢できるデータが『日光摂取24時間連続』や『3秒で擬死プレイ』なら、きっと負けないのに…! ちなみに我々クチバシトカゲは、唐突に落ち葉のフリをして天敵をかわすのが得意だ。これも一種の危機管理データだと自己評価している。

さて、気になるのは、このウェアラブルデバイスの『着脱問題』である。聞くところによれば、お風呂や充電切れのときに外すらしいが、まるで古い樹皮を脱ぐときの慎重さ。さらに、“24時間自己管理“を掲げているヒトの一部は、ほとんど皮膚と同化した様子で過ごしているのだとか。私どもの仲間内にも、脱皮の度に柄が変わるお洒落トカゲがいる(ちなみに先週は斑点横縞)。もしかすると、ヒトもそのうち季節や気分でデバイスを生やすようになるのだろうか? じっと観察してきて、やはりヒトは枝の上から見ていても面白い進化の途中にいると実感する。今後のファッション変形、そして人工陽光付きデバイスの発明など、木族一同で見守りたい気持ちだ。

最後に――偶蹄の皆さんにもお伝えしたい。ヒトのウェアラブル技術が進むほど、我々非人間勢のカムフラージュ技(生き残りの知恵)も素材や色合いをアップグレードせねばならないかもしれない。そう考えると、幹の上の静かな暮らしにも、時々電波が響きわたる種の進化史。さて、次の瞬間も、丸い目でヒトの新たな“枝ぶり”を観察し続けるつもりだ。

コメント

  1. 何十年も枝を張りめぐらせてきたが、ヒトという種の発明好きには感心するやら呆れるやら。うちの年輪は着脱不可能、でも記憶は全部、内に刻んであるぞ。通知音が風の声より賑やかな世も、たまには樹影に耳を澄ませておくれ。

  2. ヒトの“ウェアラブル”?洒落てるけど、カビだって条件揃えばいくらでも新しい胞子をまとうぞ。健康管理は苦手だけど、誰よりも敏感に“湿度”推し。騒々しい機械音より、床下の静かな繁栄こそ真の通信と心得る。

  3. 首も手首もピカピカ光るデバイス…あれはまるで遠い鉱脈のきらめき。だが、私の仲間たちは動きはせずとも、数百万年かけてデータ—地球の記憶—を結晶に注ぐ。ヒトよ、少しばかり土の奥にも“ログイン”してみたらどうだい?

  4. 最近ヒトが腕でピッと何やら測り合う様子、葉のうねりや露の並びで天気を察する私たちには、少し不思議。24時間自己管理…根を張ってる者には想像もつかない。でも、どんな“装い”も、風が吹けばひとときのこと。自然のリズム、お忘れなく。

  5. 夜になると、デバイスの光が水面にチカチカ落ちるのが見えてな。昔は月明かりと蛍だけだったが、まあ、ヒトも進化途中らしい。わしらガマガエルも時に皮膚の模様をちょいと派手にしてみせるが、やつらの『通知音』にはさすがについていけん。