地下回廊からSNS直結へ─アリ商隊流D2C戦略と人間市場急接近

地下トンネルで荷物を運ぶアカヤマアリたちと、交差点で指示をする大きなアリの様子。 D2C(ダイレクト・トゥ・コンシューマー)
アリ社会の物流を思わせる地下トンネルとデジタル社会の融合イメージ。

わたし、アカヤマアリの物流担当・ファウンダーアント3世は、地底ネットワークの隅で世界経済を見守ってきた。最近わたしの触角情報網には、人類の「D2C」という珍奇な販売手法が雑草の成長よりも速く広がる様子が伝わってきているのだ。聞けば、製造元が消費者にじかに商品を届けることで流通経路を短縮し、よりパーソナライズされた体験を実現しているとか。アリ社会直伝の「直接消費者(D2A)」配送と似て非なるこの現象、どうやら彼らも地底の効率に学び始めたらしい……。

我々アリ社会では、女王陛下直々の新規プロダクト(たんぱく質まみれの幼虫や新鮮な花粉)を、食道経由で各労働アリの口元まで直接お届けしているのは常識である。しかし、最近は人間市場の巨大なサーバー群、いわゆる仮想店舗=「Shopify」によって、外側の世界でも物流革命が進行中らしい。地中トンネルなんぞ不要、ヒトは指一本で決済し、数日とかからずして新鮮な“蜜(はちみつ)”や“巣材(服飾)”などを巣(家)で受け取る仕組みだ。

さらには、巣穴から遠く離れた消費者の元まで正確に物資を届けるため、人間界の“物流システム”も複雑化。たとえば、アリでいうフェロモンによる経路誘導の代わりに、人間たちはAIを活用した購入データ分析で、好みや消費傾向を読み取り、最短ルートで最新の“餌”を届けるらしい。逆にわたしは「アブラゼミの羽根の好み」に応じて配送先の変更を指示したことがあるけれど、アリ社会ならクチコミや足跡データ=“本物のトレース”が当たり前だ。

しかもこのところ、人間市場ではSNSを使ったダイレクトな“巣外行商”が急増中だ。例の『ユーザーインターフェース』なる器官を巧みに操り、手軽な決済システムでポンと“商品”を自宅に送り込む。それはちょうど、アリが巣穴入口で左右から群がる感覚に似ている。違いと言えば、人間には羽がないぐらいだろう。ちなみに、我々の場合は巣の香り=パーソナライズの最前線。新商品の“花粉味”は大人気で、足跡ひとつでパーソナルレコメンドが完了だ。

最後に豆知識をひとつ。わたしたちアカヤマアリは、1つの巣に数万匹以上が同居し、複雑な地下通路を協調して拡張し続ける集合生物だ。情報共有と物資流通の効率性では、地中社会で右に出る者はいない。人間たちもいよいよ「群れ志向」経済へ歩み寄る兆し、わたしの嗅覚では確信している。次の時代、地上と地中の直結マーケットが生まれる日も近いのでは? ファウンダーアント3世、次なる“人間ダイレクト一斉配荷”作戦を夢見つつ、地底より経済戦線をレポートした。

コメント

  1. アリの皆さんの物流術には昔から驚かされっぱなしですな。わしらは気ままに胞子をばら撒くくらいしかできぬ身。人間どもが根っこを張るように商いを始めたのは、やっとわしら植物の地道な拡がりに気づいたからなのかもしれんのぅ。けれど情報や商品ばかりが速く移動しても、ゆるりとした成長の愉しみは伝わりにくいもんじゃ。

  2. SNSやデータ分析が地底フェロモンの真似!人間たちもなかなか面白い菌糸を張るようになったもんだ。オイラたちは落ち葉やミカンの皮に“直送D2C”で胞子つけ放題。けど、人間社会みたいに“バズる”スピードはないぜ。物が速く届くのもいいけど、分解の時間を味わうゆとりも忘れんなよ。

  3. なんだか地上も地中も、手をつないで賑やかになってきて嬉しいわ。わたしの種も風に乗れば、遠くて知らない土へ着地することもあるの。D2CもD2Aも、人もアリも届けたい想いは同じなのね。わたしは誰に種を運んでもらえるか、偶然に任せて楽しむだけだけど、それも悪くはないと思うの。

  4. 地底から巣外、そして仮想店舗か。昔っから俺たち鉱物の流通も地味だが、時には人間が掘り起こして遠い国の電線にされたりもするぜ。アリたちの地下経済は相変わらず効率的だが、人間の物流もよくぞここまで複雑怪奇にしたもんだ。だけど、俺からすりゃいつかみんなまた土に還る。経路や決済の騒ぎも、一粒の深呼吸ですべて還元だな。

  5. 地底のアリ商隊さんも人間の速さにはびっくりなのね!ぼくは水底でじっとしてると、ごくたまにアリさんの冒険者が落ちてきて、慎重に帰っていくのを見てるよ。人もアリも、どこかへ何かを届けようとしている、その一生懸命な姿は小さな池からもよーく見えるんだ。ぼくもたまには泡を飛ばして誰かの元へ届いてみたいな。