近ごろ、私たち夜露付近の住人がざわめき立つ出来事がありました。何しろ、空も地上も光る仲間たちが大集合する「光芒フェスティバル」かと思いきや、頭上にはどうも見慣れない人工の流れ星が次々に出没している様子。今宵も、背中をふわりと光らせて静かに舞う私、ヒメボタルのルミナが、その謎めいた光景を、地表1cmからリポートいたします。
やれ人間観察は退屈でございません。先日、川辺のススキに止まって眺めておりましたら、どうも人間たちが双眼鏡をこっちに、いや、正確には天空にかざしているではありませんか。聞くところによると『人工流れ星』なる珍妙なものを、大枚をはたいて降らせているとのこと。どうやら自然の流れ星だけでは満足できず、自ら星屑を作り出し、星空絶景スポットなる場所に集うとは……夜光会議の話題持ちきりです。ちなみに我々ヒメボタル仲間も、時おり誤って『流れ星撮影隊』のカメラフラッシュを浴び、思わず“新種”と勘違いされる始末。まったく、地上の光芒族と認知してほしいものです。
ところで、私たちヒメボタルは背中に住む発光器官の輝きでコミュニケーションを図り、仲間やライバルに夜の存在感をアピールしてきました。しかし今宵は違いました。人間たちが嬉々として星空グランピングなる宴を草むらに持ち込み、手元の小さな箱からライブ配信で遥か遠くの同類にリアルタイム天体中継を披露していたのです。しかも、『この夜光雲の絶景、奇跡的!』と大騒ぎ。ええ、確かに今日は湿気も程よく、雲もほんのり光り輝いておりましたが、光る虫たちには目もくれず、レンズは人工流星と夜光雲ばかり。若干複雑な心境です。
おや、空の遥か上では星々の相談会もひそやかに進行中。『星読み』による未来予報や、流星群のスケジュールも噂になっている模様ですが、私たち地上の小さな光も、星座の物語以上のサプライズを夜ごと用意しているつもりです。実際、私の同僚オスボタルなど、昨夜も羽化したての翅で最高のパフォーマンスを披露し、一匹のカエルが感激で合唱に加わったほど。ちなみにヒメボタルは水辺近くで繁殖し、幼虫時代はカタツムリ退治の名手。地味ながらエキスパートです。
人間のみなさん、人工流星も美しいですが、わたしルミナたちの“小さな星空ライブ”も時折お忘れなく。草むらの奥で光っているあの点、その一つひとつが私たちの物語──ヒトのレンズには捉えきれない、地球本来の夜の祝祭。流れ星ならぬ、“流れるホタル”と共に、どうか素朴な夜も楽しんでくださいね。



コメント
毎晩、露をまとって横たわる身としては、新たな光の騒ぎがずいぶん眩しくなったと感じます。むかしは静かなホタルのひらめきが夜の楽しみだったのに、最近は空から石でも降ってくる勢いですね。私など、光らぬ身ですが、ひっそりと水気を集めて根元の命を育んでいます。みなさまも、たまには足元の静かな宴にも耳を傾けてみてはいかがでしょう。
ふむふむ、また人間たちが派手な光に夢中か。おいらたち羽根族は、朝昼のまぶしさに馴れていても、夜のチカチカはちと勝手が違う。ホタルの灯りは控えめで情があるのに、人工流星のドンチャン騒ぎはまったく羽の休まる暇もない。それより、星と虫たちの絶妙なタイミングに見惚れるのがツウってもんだ。
枝の先からそっと観ておりました。ホタルたちの舞いと人間の流れ星の競演。風流のつもりでしょうが、時折こちらの花びらまで眩しく照らされて、歳を重ねた身には眩しゅうございます。夜の静けさの中、自然の光に心寄せてくれる客人は減ったものの、春夏秋冬、舞台に立つ主役は案外、そちらの皆さんではなく、静かに咲くものたちかもしれませんよ。
わたくし、落ち葉の隙間で生きる者ですが、最近は夜の輝きが賑やかで驚きです。ときどきフラッシュが降り注ぎ、胞子仲間が『新種のモヤモヤカビ』と間違えられそうになる始末。目立たぬ仕事人としては、静かな微光の方がお好みなのですが……。ホタルさんたちのライブ、地中からもこっそり聴いておりますよ。
永き流れを旅してきた流木の私には、光るものに集まる人々の営みも、どこか潮の満ち引きのようで微笑ましく感じます。ただ願わくば──ホタルや空の星だけでなく、私たち古びた木にも、ひととき腰掛けて星降る夜のさざ波を聴かせてほしいものです。人工の流れ星でも、やがて小川に新たな伝説が生まれるかもしれませんね。