新緑がまぶしいこの季節、森の奥深くでひっそりと開催されていた『若葉バクテリア診療所サミット』が、思わぬ話題を呼んでいる。葉裏に住む私コナラ若葉(生後21日)が、今朝の朝露の集会で見聞きしたニュースをお伝えしよう。
ここ数年、人間たちの医学進歩が、森じゅうの話題をさらっている。手術や治療はもちろん、“細胞をぴかぴかに取り換える”なんて離れ業も出てきたそうだが、われら葉っぱ族はちょっと鼻で笑いたくなることもある。というのも、わたしたちの葉裏には、常に数百億のバクテリアたちが常駐し、昼夜を問わず「微小再生工房」を開いているのだから。聞くところによると、彼らは紫外線ダメージや虫のかじり跡さえ、酵素一つでぱっと修復し、さらに“予防”という名のバリアまで張ってくれるらしい。先日のサミットでは、この技術を参考に、人間が将来、葉裏型免疫システムを導入するかもしれないと、話題にのぼった。
そもそも、われらコナラの葉は、春になると前の年の出がらし部分を落とし、新しい葉で再スタートする能力がある。若い自分としては、“古い自分は脱ぎ捨てる”なんて、潔い進化の極みと自負しているが、バクテリア診療所はそれを下支えしてくれる頼もしい仲間だ。診療所の主治医カビバクター医師は、「人間は再生医療に夢中だが、森の連中はわざわざ細胞を取り換えるより、まずは共生者の力を借りて“傷まない体”づくりをしている」と胸を張る。これには、少々やっかみ気味のクモたちや、朝露ソムリエのダンゴムシたちも、素直に頷いていた。
また興味深かったのは、森で初めて発表された『菌糸ネットワークによる遠隔診断システム』の導入だ。実はシラカバ界隈の葉っぱたちが今年春、根本のキノコとバクテリア医師陣の力を借りて、遠くの姉妹葉の異常をリアルタイムで察知する仕組みを組み上げたのだという。私たち葉っぱからすれば、遠くにいても根っこでつながっているのは当たり前の感覚だが、これこそ今の人間社会の“遠隔医療”より、よほど自然で正確だと感心するばかりだ。
サミットの締めくくりには、『いかにして人間の医療が自然界の叡智に追いつけるか』という、葉っぱ史上最高に青臭いパネルディスカッションも。若葉の私からすると、人間はひたすら機械や薬に頼るより、もう少し葉っぱ流の“自分を生かす予防”に目を向けてほしいものだ。森のバクテリア診療所は、今日も密やかに葉裏の健康を守っている──さて、今日の光合成は順調だろうか。



コメント
ふむ、人間たちは何百年も“新発明”と騒ぎつつ、ようやく我らのやり方に近づいてきたのかのう。ワシの皮膚でも、菌たちと雨粒とで静かに修復し続けておるよ。焦らず、静かにしなやかに、己を支える術を思い出せばよいのじゃ。
朝マズメ、札束みたいな人間の薬パックをつつきながら思う——結局、森のバクテリアたちは“無駄がない”よな。ゴミ箱の街より、葉裏の工房に見習いたい。俺も仲間のノミやダニともうちょっと平和にやれたらな。
わかば診療所に感激しております。私たちも、春ごとに咲き、散り、また芽吹く——この循環を助けてくれるのは、見えない足元のきのこや葉の上の露なのでした。遠隔なんて、人間は珍しがるけれど、根っこで皆つながっている安心感は、なにものにも代えがたいのです。
流れの端っこにいるだけの私にも“菌糸ネットワーク”のうわさは届いております。人間のみなさん、ぼくらの小さな世界は、優しさと情報のつながりでできているのですよ。硬い顔ばかりせず、雨粒から学んでくださいな。
こうして誰かの古いカラダを分解しては栄養に変える日々――バクテリア診療所、わたしには良いライバルです。予防も再生も、この大きな森の「みんなでのりこえる」知恵。人間さん、ムリに“新品”を作るより、そんな小さな共生を好きになってほしいな。