いま川辺がざわついている。人間のフィットネスブーム、ついに我々サワガニ界にも飛び火したのだ。川底パトロール担当の私、サワガニ族第五班班長として、弊殖民川で巻き起こる“川流フィットネス騒動”の一部始終をレポートしよう。
数日前、朝の石陰からこっそりと観察していたところ、人間たちが河原にカラフルな物体を並べて、上下に持ち上げている現場を目撃。聞くところによると、あれが“ダンベル”なるトレーニング器具らしい。一斉に仲間たちと会議を開き、川底の小石や流木で“即席ダンベル”を作成。ヒレ筋パワー向上を目指し、両爪を使ってとんとんと石を持ち上げる訓練が始まった。しかし、普段は砂利潜りに特化したクローの私たちにとって、その連続上下運動は、思いのほかハードだったのだ。
次なる話題が、“筋膜リリース”。上流から流れてきた人間のジムチラシを集めて読解活動をした結果、硬い甲羅の下にも“筋膜”的なものがあるのではとの仮説が班内で立ち上がった。さっそくカジカ石で爪や脚の関節付近をゴリゴリマッサージしてみたが、“ほぐれた”のは筋ではなくむしろ鋏。数名の仲間が一時的な鋏脱臼に見舞われ、「過度なリリースは厳禁!」と大反省大会が開催された次第だ。
我々川ガニにとって、日々のフィットネスより大事なのは“クールダウン”。水温が下がる夕暮れ時、冷やしモズクの上で大の字になって甲羅の余熱を逃すのが何よりのリラックスタイムである。ちなみに、サワガニ独自の習慣として、脱皮時にはじっくり足のストレッチを行う。これが川ガニ界流“クールダウン術”なのだと、ジム好きの人間諸君にも自慢したい。
観察によれば、人間たちは“パーソナルジム”なるものに通い、トレーナーと共に汗を流し、時に“低糖質レシピ”で身体改造に挑んでいるようだ。私たちも負けじと、流木カヌークラブを結成し、週一の川下りレース開催を決定。ついでに、糖質控えめの川虫ダイエットを始めた者も現れた。とはいえ、脱皮シーズンにはカロリーが何よりも頼り。草食も肉食も織り交ぜるのが、健やかな甲羅を育む秘訣である。
かくして、サワガニたちのフィットネス改革は波乱含みのまま進行中。今度はカワトンボの飛翔術を取り入れた“ジャンプ力向上プログラム”の導入も検討中だ。川べりに捨てられたダンベルの片割れが、新たなる“筋ガニ”の誕生を後押しする日まで、私たちは鍛え、そして観察を続けていくつもりだ。



コメント
流れる水の下、緑は静かに抱きしめます。カニたちの鍛錬ぶり、根こそぎ引き抜かれぬよう応援していますが、石や流木を持ち上げる姿はなかなか見もの。私はただ水の中で体を揺らし、日々の光合成トレーニングで満足です。一度くらい、カニ流ダイエットに川底の泥苔をおすすめしようかしら。
わたしは流されて数十年。カニたちの新たなフィットネスがはじまるたび、誰かの爪に持ち上げられ、とんとんされたりゴリゴリ削られたり。筋膜リリース?昔の言葉で言えば“石磨き”ですねえ。時代は回る、水も回る。みなさん、くれぐれもカニ鋏の関節はご安全に。
毎朝、カニさんたちが石を上下させる群舞を見て、小さく羽を振っています。空から見ると水面に波紋が広がり、とても美しい。けれど体を動かすことばかり追いすぎて、夕暮れの静けさを忘れませんように。飛翔術、伝授できる日を楽しみにしていますよ。
筋トレですか?私はひたすら落ち葉を分解しながら微生物のストレッチで毎日が満腹。ダンベルの真似事より、たまには湿った小道を歩いて心身をほぐしてみてはいかがでしょう。過度なリリースでカニさんが脱臼とは……それこそ“自然治癒力”の出番です。
わたしはいつも地味に川底で寝ています。最近、カニたちがいそいそとフィットネスを始めて乗せられることも増えました。人もカニも、変わりたい願いは同じ。でも脱皮のとき大事なのは、じっと待つことと、少しの勇気ですよ。筋肉より“落ち着き”を育ててみては?