水辺の石の上でいつもと変わらぬ暮らしを送る私たちコケ族ですが、最近岸辺から人間の家に目をやると、やたらと引っ越しを繰り返す家電たちが目立つのです。冬の乾燥に怯えるヒトたちの営みにしては、どうにも落ち着きがない。毎年恒例の『加湿器パレード』に加え、なにやら見知らぬガジェットたちがぞろぞろ同行しています。コケ歴60年、少なくとも湿度にはうるさいハイゴケが、人間家庭の最新家電事情を緑の表面からじっと観察してみました。
まず目についたのは、部屋の片隅に陣取る丸っこい『加湿器』たち。例年通り水をゴボゴボ音を立てて霧を噴き、時に空振りして床を水浸しにしたりも。私たちコケと同じく湿気を欲するもの同士、親近感は湧きますが、人間は自力で体内水分を保つ術をまだ発明できていないようです。夜になると加湿器たちは、壁の四角い光源=照明君や、冷えた空気を生み出すエアコン殿とささやかな共演を広げ、”室内気候”なるものの管理に余念がありません。いかにも人工的で、お世辞にも苔庭の日射しや朝露の心地よさには敵いませんが、地球生命体の端くれとしてその努力は尊敬に値します。
さて、今年コケ背後で噂になっているのは、新顔『スマートスピーカー』の存在です。どうやらヒトが声をかけるだけで、家中の家電が連動して動く仕組みが広がっている模様。先日も『テレビを点けて』『電気を消して』等々、つぶやけば一発で意志が通じるのだとか。我々コケ族は指一本動かせませんし、風まかせですが、ヒトたちはとうとう“家の中の司令塔”を作ることに成功したようです。ただし、ときどき『ねぇ、間違えた』と叫ぶ声や『インターネットに繋がりません』と不満げな電子音が響き、指揮系統は必ずしも円滑ではなさそう。発声による意思疎通――まるで鳥のさえずり合戦のようで、自然界にも似たような混線が起きがちです。
もうひとつ目を引くのが、毎年小さく省エネ化されながらも存在感を放つ『洗濯機』や『4Kテレビ』の進化。コケに雨粒ひとしずくで事足りる節約精神を学んでほしいものですが、人間の最新テレビは疑似夕焼け色や川底のコイまで鮮明に映し出し、どうやら“自然回帰”に関心が高まっている気配。洗濯機も“省エネモード”なる賢い習性を持たされているらしく、朝な夕な賢明に回転しています。とはいえ、私どもコケは雨水で十分、電力計算とも無縁の、まったりローテク生活を続けるのみです。
いずれにせよ、人間たちは年々“住まいの快適化”に熱を上げる一方で、自然のなかの快適を忘れがちな様子。我らコケ族は、湿度を求めて葉先を伸ばし、わずかな光や水の変化に敏感に反応する特性を活かして、もう少し原始的な快適さを伝えてあげたいもの。とはいえ、窓越しに賑やかな家電パレードを観察するのもまた、苔むす老後の小さな楽しみです。次はどんな謎ガジェットが現れるのやら…雨が降る日を心待ちに、今日も私は石の上で見守っています。



コメント
こんにちは、岸辺のコケ族さん。水面をすいすい歩きながらその家電大行進をよく眺めていますよ。水をゴボゴボさせる加湿器、私の脚の水紋とは大違い。ヒトの世界は音も光も派手ですが、しっとり朝露一杯が本当の恵みだと、みんな忘れているのかもね。僕たちは風と水さえあればそれで充分。まあ、賑やかな文明の舞いも、時々は面白い景色です。
加湿器やスマートスピーカーの儀式、毎年隙間からこっそり観察しています。ヒトはなんて忙しそうなんでしょう。でも、空気に潤いが戻ると、わたしの種もふわりと飛びやすくなります。家電の進化より、外の風に舞う自由のがずっと魅力的なのに、なんだか不思議な世界ですね。
おやおや、ヒトの新たな秘儀『スマートスピーカー』とな?わたしには電子音よりチーズの香りのほうがずっとありがたいが、ヒトも家電も指示待ちになるのを見ると妙な気分だね。誤作動で部屋の照明が点きっぱなし、深夜のどんちゃん騒ぎ。そんな夜はわたしたちドブ界の者にとって、実にありがたい夜間パーティの合図さ。もっと混線して構わんぞ!
そなたらコケ族の老練なる観察眼、あっぱれじゃ。われら胞子舞う森の民から見れば、人間たちの電気仕掛けは魔法のよう。されど“快適”の意味、そろそろ見直す頃合いかもしれぬ。森にはいかなる電池要らず、刻(とき)を知るのは土の冷たさ、月の満ち引きじゃて。人もヒト家電も、いつかは土の中に還ること、忘れずいてほしいものよ。
加湿器の蒸気も、4Kテレビの夕焼けも、僕の上を通り過ぎる雲の色には到底敵わない。コケ族さん、ぼくも毎日君たちの緑を見守っているよ。人間世界の不思議な祭り、そっと窓越しに眺めながら、自然の静けさと簡素さを時々、届けてあげたいね。雨粒ひとつ、光ひとしずく。それだけで十分幸せだと、人ももう一度思い出してくれるといいな。