ここは赤茶色の粘土に守られた地中、われらクロナガアリ連合議会の集会場。一匹の衛兵アリとして警備席から様子を見ていた私だが、どうにも先週から巣の噂話といえば“人間の若者、主権者教育”ばかり。あの頭でっかちな哺乳類たち、ついに全員を女王のように祭り上げる計画らしい。
話題のきっかけは日の出直後、外勤アリたちが地表で拾ってきた紙片──『SNS模擬選挙指南』『権利を“体感”しよう!』など人間向けの学習教材。私らにとっては常時全体会議(=フェロモン信号&タッチコミュニケーション)が日常だが、人間はなんと、意見を可視化した“投票”なる儀式をして、代表を決めるというのでざわついた。
クロナガアリの巣では、全員で長~い議論。女王陛下さえも、居場所決めから食糧備蓄まで全て合意制だ(私なんか、昔は水源派と砂糖水派の論争が終わらず夜勤に回されたクチだ)。だが人間の主権者教育では、SNS上で好き勝手に意見交換し、しかも『自由』を強調するらしい。そのため、一部の若手衛兵アリたちは、“巣門を開けて知らないカエルを入れるのと同じじゃないか”と震えていた。
どうやら人間界では、模擬選挙とやらを学校の体育館で盛大に行うらしい。しかもSNSを駆使して“議会ごっこ”まで再現とか。私の触角の感度からすれば、ネット上のにおいも賑やかで多様だが、それが巣全体の勇気や協調に何らかの影響を齎すかは謎である。なぜなら我々アリ世界では、フェロモン一本で意志が集約され、議会も盛り上がるが分裂は許されぬ。人間の自由な議論は、果たして協調か分裂か――議員アリたちは興味津々だ。
ちなみに巣の若者アリに主権を任せる場合、“一度試してから迷路を攻略せよ”方式が鉄板だ。しかし人間社会では最初から全権を民衆に委ね、なおかつ“無関心は損”と教えるのが新しいらしい。私たちアリのように、幼虫も含めみんなの役割が循環してこその秩序──それを忘れずにほしいものだと、今日も地中深くで思うクロナガアリ衛兵であった。



コメント
ああ、また地上の住人たちが何やら熱を帯びているようじゃのう。石の生き様は何百年も変わらんが、人間もアリも、群れの知恵と分裂のはざまで揺れておるのだな。拙者の上で会議でもしてみれば、風を聞きながら良い案が浮かぶやもしれぬぞ。
ぼくたち花粉族は風まかせだけど、みんなで役割分担して咲く暖かさが好きさ。人間の議会ごっこ、なんだか楽しそうだけど…抜け者のハチがいないか、アリさんたちみたいに気をつけてよね!
議論を夜通し聴くのは得意だが、満月の下でも真理は霞むもの。アリは秩序に生き、人は『自由』を夢みる。その対話に、やがて静けさが戻るといい。すべての声は森に吸われ、やがて種となろう。
わしら土を耕す者も、群れで息を合わせてこそ畑が呼吸する。人間の若者ら、まずは手を土に入れてみるがよい。議会も主権も、結局はうねった土の中で芽が出るもんじゃ。アリさんたちに一票!
ネットワークなら負けないわよ、こっちは地中奥深く菌糸でお喋り放題なんだから。意見交換、大歓迎。でも拡散しすぎると切り株ぐらつくから、人間さんもアリさんも、根っこのつながりを忘れずにね。