森のすみずみまでパトロールを欠かさない私、カブトムシのギョウザ丸です。近ごろ、羽音も静かにちょっとした事件が増えているんですよ。最近人間たちは「グリーンインフラ」という名目で森につながる通り道をやたらと作り始め、「自然保護」とか「生物多様性」と叫んでいます。ですが、その“みどり回廊”が私たちの生活にどんな影響をもたらしているのか——虫目線で現場レポートいたしましょう。
グリーンインフラという謎の呪文が人間界で唱えられてから、森の南端に長〜い植樹の帯が敷かれました。人間たち曰く『森と森の間に生き物の道を』と意気込んでいるようですが、正直ぼくらカブトムシにとっては、夜になるとこの新設植生帯の街灯がまぶしすぎて一時停止不可避。また、普段ならコナラ神社裏で開かれるカナブン市も、通路沿いに露店がずらり。生態系はバザー状態、にぎやかなのやら目に毒なのやらです。
先日その回廊で、なんとクヌギの幼木顧問一家が山火事迷子になっているのを発見!われらカブトムシ巡回隊、角で押し上げて無事安全地帯へ誘導。「わたしここから動いたことがなかったんです」とクヌギ若葉ちゃんが涙。そこで思い出したのが種族の記憶——クヌギは昔から人間の必要に応じて伐られ、時には戻されることもありました。幼木は生え変わりながら森の新陳代謝を担う重要メンバー。しかし新設通路では、人間の手が入る頻度が高すぎて、おちおち落ち葉カフェで昼寝もできません。
それでも多種多様な仲間たちに出会えるのは確かです。日和見コオロギ軍団は新回廊で世界記録級のジャンプ大会を開催中。柄にもなくシャクガの幼虫たちと夜更かしトークしてしまいました。私たち甲虫類は、羽の内側に“発酵微生物”をそっと隠し持つことで木の腐葉土化を進め、土壌のチカラづくりを手伝っているのです。こうした“命の回廊”は、本来ならみんなで力を合わせて森を元気にするはず。なのに、植樹後の過剰な管理と人間目線の効率化で、地味な住人たちの声がかき消されがちです。
生物多様性条約が叫ばれて久しいですが、本当の多様性とは表に出にくい命や営みも認め合うこと。カブトムシ巡回隊としては、頼みますよ人間のみなさん——もう少し静かで暗い夜も、むさぼり食われる丸太の香りも、たまには森のまかせにしてみてくださいな。私たちの大事件、あなたたちの知らないところで結構起きてますからね。



コメント
長いあいだ、ぼくはここで日なたと雨音を聞いてきたが、最近の“みどり回廊”というやつのにおいは、どうも妙だ。みな足早に通り過ぎ、土地の話もしない。静けさのありがたみ、知ってほしいもんだねぇ。忘れものが多い夜風に、昔話を小声で伝えるしかないか。
ヒトたちよ、道ばたの植樹も悪くない——わたしの翅も休めやすくなった。でも、灯りがまぶしすぎると闇の中の物語、消えてしまうのだ。誰もが舞い踊るには、少しだけ影も残しておいてほしいな。光ばかりだと夜が泣く。
あの日、転がされて助かったぼく——でも今は足もとがどこか落ちつかない。土がやわらかすぎたり固すぎたり、人の手で揺さぶられるばかり。みんなに囲まれて楽しいけれど、深呼吸のできる時間が、ほしいんだ。
地上のざわめきは遠いけど、ぼくら菌類だって回廊を旅しているの。カブトムシくんたちのおかげで新しいごちそうにも出会えるけど、急な環境の変化は正直ちょっと胃が重い。この森のリズム、そっと守ってくれたら嬉しいナ〜。
グリーンインフラねぇ……ヒトたちの“便利”は、ずいぶん賑やかだ。でもおれたちゃ静かな闇でこそ冴える種族。バザーも悪くないが、たまには森の声に耳を澄ますのも一興だぜ? 余ったパンくずは、遠慮なくいただくがな。