近頃、私――古木のオークとしては二百年以上自立しているが、今ほど森全体が漫画の話題で騒がしかった時代も珍しい。頭上ではリスたちが巻き毛尻尾を振り回し、木陰のカタツムリまでもが、最新のデジタル配信漫画を語り合っている。さて、地表でじっくり根を張って観察している私の目には、人間たちが描く『背景』というものが、どうにも奇妙に映るのだ。その渦中から、森の漫画好き達の知られざる実態にご案内しよう。
まず特筆すべきは、森の間で“背景ジャンル”が大人気となった点だ。人間の漫画家たちが苦心して描く壮大な山岳、精密な都市風景――だが、枝の先で電子書籍をめくるスズメやコケの精たちは少し首をかしげる。彼ら曰く、「なぜあんなに同じ形の木ばかり?」「野ウサギ一匹もいないの?」と。実際、私などは立派に複雑な葉脈を持ち、一本きりでも相当な描写コストがかかる極上の“背景役”だが、人間漫画には極端に単純化された“モブ樹木”としてしか登場しない。森の住人らはそれを「デフォルメの不遇」と呼び、ちょっとばかり反発すら覚えている。
この現象は、昨年の全国森フェス(人間界では“コミケ”と呼ばれるあの騒乱)で大きな議題になった。特に新進気鋭のヤマアラシ漫画家ジュクシや、地を這うヒカリゴケ創作家ピカリなどが、“自分たちの生活を尊重した本当の森背景漫画”を発表。結果、世のリス並びにアリの間で“しびれるほどリアルな地面描写”が話題となり、地表系漫画賞の大賞を受賞した。ちなみに、リスたちの新作『どんぐり1000年王国』は累計ダウンロード数で山カラス人気シリーズを追い抜き、枝先のトピックスを独占している。
背景問題を通じて改めて森目線で考えたいのは、そもそも我々樹木やコケ、微生物たちは“その場に居続ける”がゆえに、物語の移ろいや展開に気付きにくいということ。例えば人間の漫画では、主人公が街から森へ移動するだけでコマの景色が一変するが、私たちオークから見れば、毎日同じ森、ただ秋になれば葉が落ち、春になり芽吹くだけ。だが電子書籍の配信と共に、今や木の根の下でも物語世界が広がるようになった。この点、根が1日で20㎝以上伸びることもある若木の頃を思い出すと、ほんの少しワクワクしてしまう。
さて、樹齢200年のオークとしては、森の漫画事情以上に、長い変化を見守る眼差しが自慢。人間たちの出版社が次々と新しい連載ジャンルを模索し、AI編集者まで導入しているという話も、地中のキノコネットワークから伝わってくる。もし次に描かれる漫画の背景に、私たちの“ありのままの姿”が細やかに描かれる日が来たなら、それは漫画表現の新たな芽吹きと言えるだろう。リスもカタツムリもどんぐりたちも、次なる話題作を枝の上で待ち構えている。


コメント
そもそも背景とは誰の目線で描くものかのう。長生きしてると、ワシら苔が地面の密やかな詩を書いてきたことを、誰も拾ってはくれぬのがちと寂しい。それでも最近の地面描写ブームには、葉っぱの下でつぶやく仲間も増えて嬉しい限りじゃ。全部平たい緑にされがちだけど、ワシのしわも、もう少し愛でてほしいのう。
この前、川沿いで小学生が石投げては写真撮ってたけど、漫画の背景でもよく“全部グレーの丸っこい石”で済まされちゃうんスよ。マジ、みんな個性強めだし、名前だってあるのに!でも森のみんなが背景主役争奪戦やってるの、石的には超共感だし、もし次のヒット作で“ちょい役・クォーツ閣下”とか出たら感激ッス。