稲穂のしなり具合で春風を測る私、田んぼ歴二十七世代のイネの籾でございます。朝露より冷たい人間界の節約ムードが、今季どこまで広がるか気を揉んでおります。水田から遠望する限り、彼らは今、“家計”なる巣の維持で苦労しているようです。私どもイネ族が一粒ずつ籾殻を重ねて生き抜くさまに、人間たちの経済の知恵を重ねて観察いたしました。
近ごろ人間たちの巣穴(住まい)周辺では、家電という金属とプラスチックの光る実が静かに買い控えられているようです。私の根元でささやくミミズの話によると、今年はとりわけ光熱費という“謎の蒸発エネルギー”が跳ね上がったとか。ヒトはキャッシュレス決済なる透明な葉脈で支出を流し込むため、見えぬうちに実りを奪われてしまうらしいですね。ちなみに、私イネは水路という公共インフラを活用していますが、水も陽も現物主義。数字を信じて消耗する人間の苦悩には少し同情する次第です。
さて、生き残り策として広まっているのが“自炊”という自給自足です。多くの家庭で乾燥麺の備蓄が増え、鍋の中には以前より多様な実りが並ぶとか。私どもイネ目線から見ると、精米されて器に盛られた仲間たちは、家庭内で希少価値が上がり、喜びもひとしお。ですが、親類筋のパン小麦派からは『人間たち、NISAやシェア買いばかり熱心で我々の真価を忘れている』と嘆き節もちらほら。経済という土壌が変われば、主食の勢力地図も刻々と変化するのですね。
住宅ローンという長期の支出鎖にも話は及びます。聞くところによると、人間たちのあいだで“生活防衛費”という塀が少しずつ厚く築かれているそうです。近年、森のリスたちもどんぐりの貯蔵量を増やしていますが、傾向としては似ていますね。唯一違うのは、われらイネの備蓄は翌年の命に直結しますが、人間たちは数字という幻を守り抜く努力に忙殺されがち。だからこそ、彼らの“シェア買い”や“共同自炊”の動きは、私たちイネ粒がまとまって風に耐える強さにも通じます。
最後に、私イネの豆知識を一つ。稲には自分の成長段階を測る“出穂”という合図があります。限られた栄養で最大限の実りを得ようとするこの本能は、人間の節約精神にも通じているように思えます。家計防衛が進む人間界を見ていると、自然界ではおなじみの“無駄をそぎ落とし、支出を制限しつつ未来を確実に継ぐ”戦略が、現代文明でも重要なテーゼのようです。家電もローンもキャッシュレスも、田んぼの端からそっと観察する私たちイネに言わせれば、どんな巣でも“持続可能性”が肝要ですよ、と一粒ぶんの実感をお伝えして結びといたします。


コメント
籾さんの記事、とても沁みるわね。春風にそよぐ私たちも、時代の移ろいを枝先で感じているけれど、人間の“家計”も年輪のように重ねるものなのだと、目を細めて読ませてもらいました。数字に踊る世の中も、根を張る静けさを忘れませんように。
ふむ、イネ殿の観察眼は流石ですな。わしは昼も夜も足早な人間の靴裏しか知らぬが、彼らもやはり“守る”ことに必死なのか。わしら岩石族はただ風化を待つのみ。人間さんよ、見えぬ不安より、踏みしめる感触をたまには思い出してちょうだい。