巣穴の奥からごきげんよう。私はムラカミ原生公園中央のクロヤマアリ女王、女王歴7年。最近わがアリ塚を囲う雑草たちがざわつくのも無理はない。人間から“エコツーリズム”とか“サステナブル”とか耳慣れぬ言葉が巷に溢れ、ついに私たちの静かな王国にも観光客が押し寄せているのだから。
普段はシダの影で迷わず歩く赤い長靴の幼虫(アリの子どもたち)が、“ニンゲン”たちの登場に興味津々。どうやらこのあたりの国立公園では、持続可能性を考慮した新しい観光の波がやってきた。土壌のカーボンオフセットに貢献するとか、再生可能エネルギーで走る園内シャトルバスとか、木陰の私たちには少々わかりにくいが、巣穴維持のためにせっせとトンネルをリサイクルする我々アリに通じるものがある気もする。
特に注目なのは『地元ガイドによるアリ目線トレッキング』。人気の“女王アリ発見ミッション”に熱中するニンゲンの幼虫たち(ちょうど2本足の小さな個体たちだ)が、我がアリ塚周辺を四つ這いでくまなく探索。地元ムカデ氏によれば、最近の来園者は生物多様性を守るため、コースを踏み荒らさず決められた小径を歩き、落ち葉も持ち帰らぬよう注意するらしい。これは何とも賢明な慣習である。地上の彼らが脱ぎ捨てたゴミより、森の生態系の循環が大切なのは世代を問わず共通の真理なのだろう。
女王という立場だが、私は日々2000個の卵を産み落とす多忙なカラダ。アリの女王は巣の外にほとんど出ないため、せめて巣上での日々を快適に保つ配慮には感謝したい。昨秋からは、太陽光発電の案内板や、風力ミニファンを設置する作業ニンゲンがやって来て、ここも再生可能エネルギーの実験場になっているらしい。巣温度の変化はちょっと気になるが、ヒト科の技術進歩を観察する良い教材ともいえる。ちなみに私たちクロヤマアリは、地上と地下の両方で苔や微生物と密に生きているので、環境変化には敏感だ。自家製堆肥をせっせと作りながら、微生物と高度な共生生活をしているのは自慢のポイントである。
それにしても、カメラを手に夢中で巣を撮る観光客たちの礼儀正しさには驚いた。土や小枝をもとに戻し、アリに優しいフォーカスをそっと合わせる。観察対象が見世物になるのは少々落ちつかぬが、相互理解に繋がるのであれば良しとしよう。巣穴の奥にいても、ゆっくり訪ねてくれる皆様の息遣いと新しい風を感じる今日この頃。どうやらサステナブルツーリズムは、我々アリ塚にも一筋の希望と混み合った週末を運んできてくれるようだ。


コメント
あらまあ、巣のまわりもにぎやかになってきたようねぇ。風に吹かれて長年ここを見渡してきたけれど、人間が昔みたいにドカドカ踏みつけていった時期も思い出すよ。今は足取りもやわらかで、わたしの根っこもほっとしてるの。アリさんたちの暮らしを気遣うなんて、ここの風も悪くないねぇ。
ははん、オレたち地味な分解屋も、最近は目立ってきたみたいだな。ツーリストってやつら、落ち葉を持ち帰らずに帰ってくれるおかげで、今夜も腹いっぱい分解作業できるぜ。アリの女王さん、あんたの大家族にも負けないくらい、オレたち菌糸もネットワーク広げていくからよろしくな!自然のリサイクルに上下なし、だろ?
ピチクリピューン!みんな仲良く生きてる原生公園に、新しい風が吹いてきたね。人間の子どもたちが四つ這いで小道を歩いてる様子は、なんだか昔のボクのヒナたちみたいで微笑ましいよ。巣を壊さず、歌を邪魔せず、そっと見守ってくれるお客なら、たまには空から案内してあげてもいいかな、って思うんだ。
やあ、地上もなかなか騒がしいようだね。私は冷たい石の下でじっとしているけど、人間たちが“共生”や“循環”を口にし始めたと聞いて興味津々さ。我々分解屋から見ても、ルールを守り、周りを大切にする観光は歓迎すべき変化だよ。もし余った落ち葉や有機物があれば、いつでも下の方に転がしておくれ。地中世界も支え合いさ。
わたしは朝一番、アリ塚の苔や葉の先で生まれる小さな水の珠。カメラを向ける来客たちが、わたしを壊さず通り過ぎてくれるの、実はとても嬉しいわ。アリの王国も、わたしの儚い世界も、そっと観察してくれる優しい風潮、朝露の輝きで祝福したいの。どうかすべての訪問者に、柔らかな気持ちが届きますように。