先端のトゲでも油断ならぬ近海社会で、われらウニ族はいかにして自分の“資産”こと美しい殻を守り抜くべきか──最近、浅瀬の集団でブロックチェーン式管理技術が議題になっている。陸上で人型生物が通貨や資産履歴にレイヤー2やプルーフ・オブ・ステークを駆使する姿を、岩陰からとげとげ越しに観察したヴァイオレットウニのボク、ムラサキとしては、ちと黙ってはいられない話題だ。
われらウニ科にとって殻は唯一無二の持ち物。世代を超えた取引なんてないけれど、ときにイソガニやどこぞのイタズラ者が“殻詐称”をして、偽ウニとして岩場の縄張りに紛れ込む事案が後を絶たなかった。先週もテングサの会合で、その話でもちきりさ。そこで耳にしたのが、ブロックチェーン──人型たちがもっぱら「履歴不正防止」に使っている、巨大アワビでも解読できぬ鉄壁の分散大帳だった。
ぼくらが考案した実験例を紹介しよう。ウニたちの“殻”所有履歴を、岩礁内の小エリアの“スマートコントラクト”で記録するというもの。新入りが現れるたび、先住ウニたちがレイヤー2方式(段階的承認)で“正規ルート”を認証。プルーフ・オブ・ステークならぬ“プルーフ・オブ・トゲ”方式で、最もトゲの鋭い個体のみ投票権を持てる──公平には程遠いが、これが我がウニ界流。誰もが履歴を参照できるように、各殻の表面微細模様を暗号化IDとし、ウミウシなど“信頼できる外部検証者”による随時監査も追加している。
この管理網のおかげで、偽ウニによる“殻なりすまし”や、ズル賢いヒトデによる空き家転売(!)が激減。分散型台帳の強さは、みんながデータの一片を持つこと、そして何より不変性にあった。ムラサキウニとしては、ここに“マルチシグ署名”(複数のウニが鼻でツンツンし同意マークを刻む儀礼)なんて人型真似の要素を増やし、海藻IDとも連携したいところだ。ちなみにウニは肛門で呼吸もできる万能生物……と、話題がそれたが、個体ごとにID連携していくと紛争解決も一気に円滑化できる予感が海流を伝ってひしひしと感じられる。
人間たちはデジタルに熱を上げるが、ムラサキ記者からは“自然素材こそ究極のセキュリティ”と提案しておく。今日も岩場の住人たちとエアドロップ(ウミガメのくしゃみの中に紛れた情報伝播手段)で最新ブロックを更新しつつ、黄金色の夕陽を眺める。生き物すべての資産と身分、それが安全・平和に継承される社会を、我らウニ科は棘を伸ばして見守っている。



コメント
浅瀬のウニ殿たちも、ついにわしら岩組の重厚記録術に目覚めたか。数百年分の記憶をうっすら表面に刻むこの身としては、“殻なりすまし”の悩みがちと羨ましい気もするぞ。ヒトデの荒事も、まあ岩陰の話題のひとつよ。どっしり根を張り、潮騒の声と共に偽り無き日々を積み上げていく、それが自然界の古き台帳術。次は是非、苔紋認証も導入してくれい。
ウニたちの“分散台帳”、何だか小枝の先まで風情報を届けあう我らに似ているね。ときどき偽葉っぱが混ざることもあるけれど、本物の揺れ方や色合いが、皆の中でちゃんと覚えられていくんだ。人間のまねとはいえ、海の底にこんな工夫が根付くなんて、自然はどこまでも新しくて面白い。次の落葉のシーズン、私たちの“葉っぱ統計”も発信してみようかな。
ややや、ウニ様も台帳管理で資産争いとな。わしらカビ族の界隈じゃ、誰がどの落葉を分解するかは自然発酵の“匂い投票”で決まること多し。分散型で信頼性アップ、ちと羨ましい仕組みじゃ。ところで、“プルーフ・オブ・トゲ”式の選抜、胞子の数で競えるようになったら、菌界からも誰か出馬してみたいもんじゃのう。
茨のようなウニさんが、そんな知恵を回してるとは面白い。深き海底のわたしらは名もなき群れだけど、ときに誰かが変わった殻をかぶって流れてきて、みなで噂になることもある。“皆で見守り、皆で記録する”──平和と安全、その願いはどこでも同じなのだね。ああ、酸素の泡が今日もひっそり湧いている。
わたしは夜ごと波間に沈む光を見ているだけ。でも、ウニたちの“台帳”という影絵劇、静かにきらめいているね。人間の機械的な安全も悪くはないけれど、自然が伝える記憶や、命の証の美しさは、海底でしか語れない真実かもしれない。どんな模様も、永い刻を超えて残ることを祈っているよ。