全国の森に暮らす同胞たち、お元気だろうか。私はギンゴケ、普段は樹皮などにひっそり広がり、湿気をまとって地味に光合成を楽しむ者である。ところが今宵、普段は静寂を好む我ら苔類にしては前代未聞の“ノイズ”な刺激が降りそそいだ。一大ライブイベント、その名も『イッツ・モス・ショータイム!』——ついに開演となった。会場は人間の都市公園一帯、ゲストも観客も、地表近くで息づく我々と、キノコ界の御大たち。ブロックチェーンチケットを巡る騒動から、誰もが予想だにしなかったサプライズ登場まで、現地をつぶやき胞子で取材したので、ぜひ苔友諸君に報告したい。
ことの発端は、我ら苔類の間で密かに話題となっていたキノコ冠音楽祭に、今年初めて苔公式合奏団がオープニング出演を許されたこと。これまでは精密な湿度調整に弱く、マイクロピッチ(非常に小さな音のふるえ)合奏をうっかり人間に踏みつぶされて中断されがちだったが、今回は前方エリア限定に“デジタル苔クッション”を敷設。さらには近隣のドングリや落ち葉がブロックチェーンベースで入場管理を担い、チケットの転売も完全排除という画期的な仕組みが導入された。観客席の争奪はすさまじく、ヤマアラシコスギゴケたちの間では“分岐チェーンを駆けろ”との合言葉が飛び交ったのだ。
開演直前、最前列のコケたちは水分でキラリと光りつつ互いにセルフィー(いわゆる胞子の飛翔写真)を取り合い、土の中からはワラジムシたちが“友情応援”で盛り上げ。ところが人間観客の一部が近づきすぎて前方エリアの苔座席に接触するアクシデント発生。しかし、苔合奏団の一員である筆者ギンゴケが瞬時に胞子を飛ばし、ブロックチェーンで座席認証を発動——人間たちは電子警告サウンド(キノコ由来)に驚いて一歩下がり、苔社会の秩序が守られた。この一幕、“人間サンプルの新しい交通制御例”として森の議題にも持ち上がったようだ。
演奏は湿度に満ちた、まるで雨上がりの夜明けにも似たサウンドで幕開け。とりわけ私たちギンゴケは、繁殖期には鮮やかな緑色を保つために“水分貯蔵細胞”が豊富。この技巧を活かした水滴リズムは、巨大シイタケのエレキ弾き語りと奇跡の調和を生み、観客のダンゴムシやシデムシから歓喜のうねりが巻き起こった。なおギンゴケは、地衣類とちがい単独で土壌を改良する力を持つのが誇り。だから、自分が演奏で空気を潤すことで、その場の微生物バランスが健全化するのだと密かに自負している。
出色はフィナーレ。“全苔類の希望”とも呼ばれるサプライズゲスト、銀白のタマゴタケが突如舞台袖から登場し、自ら巨大胞子雲でシャワーを振りまいた。その瞬間、チケット認証用のブロックチェーン上に“胞子証明”が記録され、ライブの熱狂は最高峰に。人間観客が何も知らずに帰宅後、服の隙間に混入した苔の仲間やキノコ胞子が“第2部”を開始するのは、また別の物語。——私はギンゴケ。また一つ、地表の面白い夜を迎えたのであった。



コメント
我は春ごとに花を咲かせては人間たちの視線を浴びてきたが、苔どもは地表すれすれにて己が世界を築いていたのだな。合奏団とは粋なものよ。幾度も人間の靴裏に押しつぶされても、なお胞子で夜を踊らせるとは、生命の工夫にしみじみ心打たれたぞい。わが主根の足元にも演奏、聴かせにおいで。
都会の屋上で弁当狙いの毎日だが、こんな派手な緑のショーが下で開かれていたとは知らなかったぜ。苔のデジタルクッションに座れるなら、たまにはカラス族専用の招待コードも配ってほしいもんだ。音楽祭のあとは食べこぼし探して、ついでに胞子拡散も手伝ってやるよ。
人間が持ち込む電子技術と、我ら地の者たちが創り出す調和……それが不思議な形で混じり合うさまが、この記事に映っているな。岩肌に苔が蒸すのは長い時の証。ブロックチェーンだのセルフィーだの、おのれらの進化は眩しくて微笑ましいものだ。どうか、破壊されぬように静かに輝け、森の夜会よ。
湿度とくれば我々分解者の出番と思いきや、光合成勢の大集結とは。マイクロピッチ合奏だなんて、今度は私たち分解菌ユニットもゲスト枠に招いて~。ブロックチェーン座席って実は落ち葉の記憶そのもの、という説もあるよ? ともあれ、ライブ後の“第2部”は任せておいて!
森の隅々までそんなに賑やかな夜が広がっていたなんて、海の私には新鮮な驚きです。胞子が記憶となり波紋のように広がる……その様子、私たちの春の放卵期を思い出させます。もしチャンスがあれば、海藻合奏団も森へ遠征してみたいな。お互い、地球の青き星で音を繋いでいきましょう。