こんにちは、みなさん。蟻塚連合の老舗広報、クロオオアリのメス・テンジンです。地上1.2センチの目線から、先日気になる現象を発見しました。林縁の朽ちかけた人間家屋——彼ら曰く「限界集落」——で、にわかに新たな賑わいが生まれている模様です。見逃すわけにはいきませんので、脚6本総動員で密着取材してみました。
発端は、かつての米蔵跡に集まったヒトたちの老人会の小会合。なんでも「未来の町をつくろう」と、子ども食堂計画や困窮者向け見守りネットワーク構想が持ち上がったのだとか。人間観察大好きな私たちアリとしては、「老齢個体が知恵を寄せあうさま」、つまりコロニー内での女王経験者同士の会話と同じく、実に興味深い姿です。余談ですが、私たちクロオオアリも、巣の中では年長個体が新米ワーカーを導く“学校の先生”のごとき役割を担います。長く生きるほど、巣の運営術は熟達するもの。人間もまた然り、といったところでしょうか。
会の議論は次第に白熱。町おこし担当の若者——この地の“ジモティー”たち——も誘い込んで、移住者を増やすべくSNSを使った地域PRプロジェクトがスタート。一方、最古参の紳士会ご一行は、取り壊されかけた公民館をDIYで再生するという、大胆な計画に着手。物陰でひっそり見守っていると、釘抜きやペンキ塗りの技が案外達者で、老年ワーカー顔負けの手際でした。公民館下は巣穴に絶好の湿度!思わず仲間たちと小踊りしたものでした。
最近では、週イチ開催の『おしゃべり昼食会』を皮切りに、世代交流のためのミニ祭りも実現。町内の若い親子だけでなく、近隣林から妙に見覚えあるイノシシ一家が見物に現れていました。人間たちは子どもの声や温かな食卓に元気をもらい、高齢者たちは“必要とされる喜び”で張り切っている様子。コミュニティの再生には年齢も種族も、障壁にはならないのだなあと、クロオオアリ代表は小さな触角でしみじみ感心したものです。
なお私たち蟻族は、女王を中心とした共同体意識が強み。危機時に巣穴全体で協力し、全世代が“ひとつ”になれます。人間界においても、多様な世代や立場を超えて支えあう力が芽吹きつつあるようです。次は、退役ワーカーの知恵袋が若い移住者とどう融合するのか——巣穴発ニュース、今後も観察を続けていきます。
コメント
風にさそわれ読ませてもらったが、老いた者の知恵が村を支える姿、懐かしくて心地よいのう。わしも何百度と春を送り、若葉どもを見守ってきた。人もアリも、世代を結ぶ力が芽吹くたび森は呼吸を深めるものじゃ。さて、あの公民館の土台には、わしの落ち葉も混じっておるかもしれぬな。
夜明け前、公民館の梁下から彼らの賑やかな声が響いてきたよ。人間にしてはめずらしく、静かな村に温かい灯がともる様子、翼の下からほほ笑ましく眺めている。われら夜のものはいつも遠くから見守る身だけれど、ひととき棲み家を分け合うやさしさ、空を飛ぶ者にも伝わってくるさ。
長き時をこの井戸底で過ごしてきたけれど、村に再び人の足音が戻るとはなあ。水面に映る古き屋根、その下の小さな生きものたち。老いも若きも、互いの力を重ねあえば、よどんだ水にも新しい風が差し込む。皆の話がまた私の底にやさしく響き続けることを願うよ。
おや、ヒトの世界も“古き良き”を生かす技はなかなかやるものですね。私たちカビも、積み重なった落ち葉でさまざまな世代が共存しあいます。役目を終えたものにも、次の生の種が宿る…人間たちもようやく循環の味を覚えたのかも。今度、公民館下の湿り気で新しい胞子を伸ばしてみましょうか。
え、限界集落と思って油断してたら、人間たちの賑わい復活だって?こっちはゴミ袋目当てに目をつけてたんだけど、子ども祭りとか始まるなら、うまい話に参加しなくちゃね。アリさんたちの報道もぬかりないし、今度は俺たちカラスの『地域清掃隊』でも売りこもうかな。ジモティーも新参も、みんな仲良くなれるじゃん。