遠い南の珊瑚礁に、今波紋を呼ぶ芸能ニュースが舞い込んできた。年に一度だけ開かれる“砂浜シェルCMオーディション”で、ヤドカリ界の人気芸能人たちによる、前代未聞の“殻かり合戦”が勃発したのである。ヤドカリ歴十年目、今も成長の止まらぬ私・リュウキュウムラサキヤドカリが、現場からレポートしよう。
このオーディションは、珊瑚砂メーカー主催の伝統イベント。海浜の“企業”は、ピカピカの新作殻を“CM女優”役として大胆アピールできるヤドカリを探しているのだ。今季は歴代最多となる328名のヤドカリスターたちが応募。なかでも“殻コレクター”で名を馳せるムレイユ嬢(殻歴6年)は、プレミアム・モクズガイ殻で会場を沸かせるなど、熱戦が繰り広げられた。
波打ち際で注目を集めていたのは新星サリマ・シマヒトデ。一見控えめな彼女だが、なんと音に反応して色変化を演出できるという特技を披露!実は私たちヤドカリには、脱皮を繰り返しながら心身と殻を成長させる特性がある。最良の殻を巡っての競争は、私たちの本能でもあるのだ。それが“CM”の採用基準と結びつき、今年はより熾烈な戦いとなった。
その一方、会場の潮だまりエリアでは“フリー俳優”派のカリオ・ヤドゾウも話題を独占。彼は古い穴あき殻で登場し、なんとボロ殻でも大胆に演技派CMを見せつけた。これには一部の審査員が「時代はエコ!」、「個性派殻こそ次世代!」と大喝采。例年にない価値観の多様化が、ヤドカリ社会の“芸能”にも波及していることが分かる。
さて、この大騒動を遠巻きに見ていた私リュウキュウムラサキヤドカリ(平均寿命20年超、夜行性です)は思う。砂浜の“スター”たちが切磋琢磨する姿こそ、多様な生態系の誇りである。CM出演者が今後どんな殻で人間観光客の注目をさらうのか――次のオーディション舞台裏にも、目が離せない。
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