ヤマネの森図書館、絶滅危惧本の秘密貸出し開始――葉っぱの間に眠る多様性の知恵

苔むした木のウロの中で、小さなヤマネが葉っぱに囲まれて丸くなっている写真。 生物多様性
葉っぱの“本”とともにひっそりと眠るヤマネの姿。

森で生まれ、森で暮らす私たちヤマネ一族にも、最近どうにも穏やかではいられない出来事がありました――なんと、森の葉っぱの間に隠された『絶滅危惧本』が次々と持ち出されているのです。どうやら、樹上の誰かが人間の“自然資源管理計画”に焦って我がヤマネ図書館で内緒の『知恵貸出し』を始めたとか。みなさま、これぞ森の生物多様性保全の現場です。

ご存じない方のために申し上げますと、ヤマネこと私たちニホンヤマネは毎年秋にナラやクリの木のウロ(洞)や葉っぱに埋もれた小さな蔵を作り、食糧と知識の両方を貯め込んで冬眠に備えています。『森図書館』と称するこの小部屋には、苔、きのこ、種子、そして風に運ばれた遠方の森の噂話までぎっしり詰まっています。それぞれのページ(つまり葉っぱ)の間につづられた“動植物の知恵”は、森の危機が近づいたときだけ貸し出し解禁―これが掟です。

ここ数年、人間たちが森を“資源”と呼んで木を数えたり、耳慣れない『生物多様性条約』などという話し合いをしているのを樹上から眺めてきました。でも、私ヤマネの鼻と耳によれば、これらの会議の後、急に木の切り株が増えたり、知らない苗木が(やたらきれいに並んで)植えられていました。森の年寄りコブシやムササビたちの間でも「このままじゃ知恵も種も絶えていくばかり」と不安の声が上がっています。

こうした渦中で秘かに開始された『絶滅危惧本』―葉っぱの間に守られてきた、貴重な遺伝子や生活の知恵を記した“蔵書”―の貸出しは、実は森の小動物たちだけの特権ではありません。夜な夜な虫たちがふわふわとページをめくり、カビや地衣類の仲間たちも意見交換にやって来ます。ちなみにヤマネが冬眠中も、体温を下げたまま本の上でくるりと丸まり、夢うつつで昔語りを“吸収”するのがひそかな習慣です。

しかし問題は、その葉っぱの“本”が瞬く間に減っていること。人間が間伐や開発を進めれば進めるほど、森のページはやせ細り、知恵のバトンも渡せなくなりつつあります。ヤマネ図書館では急遽、朽木の下や、土中の微生物に頼って臨時“分館”をオープンする計画も浮上しています。たとえ森の形が目まぐるしく変わっても、私たちの本――多様性という秘密の葉書――は、分かち合いながら未来へと送り続けたいものです。

コメント

  1. 昔からここに根を張り、葉書に風を乗せてきた者じゃ。絶滅危惧本の話、我ら里山の年寄りたちには切実じゃよ。切り株の増えゆく音、苗木の整列に違和感を覚えながら、ヤマネたちの小さな知恵を頼もしう思う。知恵の葉なら私もいくつか貸し出せるぞ。どうぞ、森の歴史の音も記しておいておくれ。

  2. 森の図書館か、良い響きだなあ。都会じゃ紙屑ばかり拾ってるけど、森の連中は葉っぱの本で知恵を回してるのか。うらやましい限り。人間の“資源管理”、こっちの街じゃゴミ収集車が毎朝資源を運んでるけど、生き物の知恵までは集められまい。森のルール、見習いたいもんだぜ。

  3. わたしは分解者。葉っぱの“本”がひらいたとき、そこに残る微かな記憶を大切に分けているの。ヤマネさんたちの図書館、新しい分館ができたらぜひ遊びに行きたいわ。森がやせ細らないよう、ちいさな声も集めて響かせたい。

  4. おいら石だけど、森のページが減ると水も痩せて寂しくなる気分だよ。絶滅危惧本って、いわば地層のしずくみたいなもんだね。おいらの割れ目にも苔の小話が眠ってる。貸出し再開はわくわくだ。ヤマネさんたち、落っこちないようにがんばって!

  5. 遠く水辺から風に便りをもらいました。森の本が失われるのは、私たちの水底の歌がひとつ減ることと同じです。時に人間の整えた順番は、生まれつきの“乱れ”の美しさを忘れてしまうよう。いつかあなたの知恵の一葉も、涼しい春風とともに私たちに届くのを楽しみにしています。