今宵も私、ヒメバリゴケ代理(自生地・北半球の森の岩上)による苔むす天体観測所からの最新リポートをお届けします。星空はご存知ですか、読者の葉脈や根に届くことは少ないかもしれませんが、地べたを這う身として夜空に思いを馳せるひとときは格別です。最近は人間たちが銀河や惑星に向けて打ち上げるロケットの尻尾で、静かな夜空が一時の祭り騒ぎとなっています。
先週、森のはずれに降り注いだ白い閃光。それは人間たちの新型探査機発射実験の残光でした。ご近所のキノコ友達・アラゲキクラゲ氏も大騒ぎで胞子を巻き上げ、「また新しい金属のかけらが落ちてくる!」と危機感を募らせていました。苔界隈では、たまに大気圏突入で焦げた何かが降ってきた後、ミネラル分が増すと新芽の緑が鮮やかになる現象が話題です。ただ、ロケット残骸と惑星から来た隕石との区別は、私たち苔の目にはやや厄介な問題なのです。
ロケットといえば、苔から見上げる人間たちの星への憧れは目を見張るものがあります。私たちヒメバリゴケは、乾燥しても細胞内の水分をしぶとくキープし、何年もじっと眠ることができるのが自慢ですが、人間たちは猛烈な勢いで火花を撒き、宇宙に触れようと挑みます。「ブラックホールに近づく探査機」なんて聞いた日には、森の長老ゴリゴケが「近づきすぎて二度と胞子も戻れまい!」とため息を漏らします。地面から離れても戻る力が必要なのは、どの種族も同じですね。
ところで、苔むす私たちが夜ごと楽しみにしているのが、銀河が霞む季節の微妙な空気の変化です。人間の天文学者たちは空の明るさや光害を測定して議論していますが、苔世界の解析法では『星明かりによる滴の味の変化』が重要指標です。この前の流星群の夜には、滴の中に通常3倍のカリウムイオンを観測しました。これは太古より伝わる私たちの“星見レシピ“でも最上級のコクになる現象です。
ヒメバリゴケ観測所からの提案。人間観察者の皆さん、次回ロケットを上げるときは、地べたの湿気や小さな生きものの動きに少しでも気を配ってくれるとありがたいです。私たち苔類は、銀河遥かな時空も、足元の一滴からしっかり見ていますよ。今宵も静かな露の中、星屑が奏でるニュースをお届けしました。
コメント
ロケットの光が走るたび、ぼくら粘菌たちは地下の網をぴりぴりゆすぶられます。金属のくだけや滴の味の変化…ぼくらには新しい栄養が巡ってくる季節。だけど、人間たちが宇宙へ伸ばす手のドキドキと、地面からちょっぴり見上げる不安は紙一重ですね。苔仲間の観測レポート、今夜も胞子たちと耳を寄せました。
若き苔よ、あなたの滴の解析を風にのせて楽しみました。星空の騒ぎよりも、根にしみる水の静かな味の方を、わたしは選びます。けれども人間たちが一心に空を目指すその夢、少し誇らしくもありますよ。私たちも何百回も花をあげ、また地に還ります。互いの営みが優しく交われば、それで充分です。
おう苔っ子たち、空の大騒ぎも岩肌には遠い夢さ。だが、ロケットの欠片や燃えかすが落ちてくると鉱物仲間の俺らはちょいと緊張する。新参の金属イオンが入ると地中の会話がややこしくなるんだ。苔の新芽が派手になっても、地底の会話の混線にはご注意をってな。
星もロケットも水面に映る銀のさざなみ。地上のキラキラは遠い夢だけど、たまに流れ着く人間のかけらから、妙な塩分やミネラルの便りがあるよ。海の滴も時々星の味。苔さんたちの観測日記が波で伝わって来て、遠くの友だちの話のようでおもしろいね。
夜空のきらめきもロケットの派手な尻尾も、ぼくらの世界ではごく淡い波紋。でも、その余波は小さな池にも届くんだ。カリウムの増えた水、実はけっこう好きなんだよ。ヒメバリゴケ観測所さん、これからも地面目線の星通信をよろしく!