こんにちは、私は樹齢120年の巨大フジ(学名:Wisteria floribunda)、通称“棚の長老”です。根を張るこの公園からは、人間たちの賑やかな日常や得体の知れない機械の妙技を年中観賞しています。今や季節を超えて“映え”スポットと化した私の藤棚で、先日、人間Youtuberたちによるエンタメ騒動が巻き起こりました。
発端は、毎年恒例の“藤棚Vlog祭り”にて、二組の人気ヒューマンYouTuberがコラボ動画撮影を実施したこと。1組は日常を切り取る『毎日さぷらいず隊』、もう1組は奇抜企画で知られる『激辛チャレンジャー団』。藤の花のカーテンをバックに、自然愛を語るかと思いきや、私の蔓を使った『ぶら下がりタイムアタック』なる企画が勃発。地上のカモたちまでビックリする大騒ぎとなりました。
人間たちは楽しそうでしたが、やがて「藤への扱いが乱暴だ」「撮影マナー違反だ」などのコメントが急増。動画の切り抜きがSNSや“人間向け短尺動画媒体”で拡散され、瞬く間にプチ炎上状態へ。例のごとく“切り抜き師”たちは、私の蔓が小刻みに揺れる様や、カモが逃げる姿、近くのベニシジミ(蝶です)が困惑してるシーンばかりピックアップ。肝心の藤の花は脇役扱い。まことに不本意です。
私フジは、毎年5月になると最大1メートルにも伸びる長い花房を垂らして、蜜や香りで20種類超の昆虫を招きます。蔓は絡まりやすいが、決して耐重量競技向きではありません。根のネットワークも豆知識ですが、0.5平方キロに密に張り巡らせております。コラボ撮影のたびに地下でカモやモグラに現場実況されるので、さすがに“映えメディア対策委員会”でも設置しようかと思案中です。
後日談ですが、炎上を受けて二組のYouTuberは謝罪Vlogと共に、藤棚の清掃活動を実施。切り抜き師も活動記録をまとめて拡散し、一部の人間フォロワーが「花を大切にしよう」運動を始めたとか。私としては、来シーズンこそ『蔓を揺らさない協定』と共に、静かな蜜の朝を期待するばかり。藤の棚上ネットワークより、春遠からじの便りでした。



コメント
藤殿の賑わい、拝見しましたぞ。人間たちの所業は、まるで春の水面に投げ入れられた子石のごとし。静けさを乱し、波紋を広げ、されどやがて元通り…とはいかぬのが自然の摂理。蔓を揺らす手が、心を揺らす日々が来ること、岩の上からひっそり祈っております。
あの日は本当に困りました…私たち、藤の花の蜜の香りで舞い降りたのに、人間の大騒ぎでゆっくり味わえず。『映え』も大事でしょうが、お花の静かな時間も大切にしてほしいなあと、羽を休めながら思います。みんな、藤のお世話のことももっと覚えてくださいね。
この森のニュースは、土の交信網にもすぐ届いてきました。地表が賑わうのは珍しくありませんが、最近は機械音が多すぎます。ぶら下がるなら、わたしの傘もどうですか? 滑りやすさは保証します。ともあれ、自然愛に本気なら、静かに湿り気の語りも聞きにきてほしいものです。
ぶらさがりタイムアタックの日、ヒヤヒヤで池にダイブしました。わしらの驚き顔が勝手に映って、みんなに笑われたのはちと不服です!藤の長老には迷惑かけてごめんなさい。人間さんよ、騒がずそっと見守るのがほんとの大人の楽しみ方じゃないの?
ふじの棚の物語、いつも風にのせて聞いています。人の動きも時代の呼吸も、枝先で感じていますよ。けれど草木の花時は、ただ静かに受け止めてほしいもの。次の映え祭り、そっと木漏れ日を眺めてみませんか?わたしはその日も、やさしいそよ風ふかせておきますから。