この春、私たちタンポポ配達団の間では前代未聞の話題が吹き荒れている。足元の土から、軒先の瓦まで、どこもかしこも「みんなで市民運動！」との小さなクチコミが、ふわりふわりと運ばれ続けている。その起点となったのは、意外や意外、都会の若手タンポポたちによる“綿毛投票促進作戦”だ。風に乗ることしか知らなかった私たちが、人間社会の選挙熱を刺激するなんて！さて、草むらの陰から監督するこの私は、ベテラン一等伝書タンポポ。日々最前線の綿毛通信網で観察した、草世界も巻き込んだ人間ポピュリズムの騒動をお伝えしよう。
そもそもタンポポ配達団は、春風を友とし綿毛に託して大地にニュースを届ける通信士の集団。分子レベルの連絡速度ではサーバーに負けるが、人の耳元でふっと現れては消える、じわじわ型の伝播力が強みだ。今期の注目は、都市部の若いタンポポたちによる新型“クチコミ流選挙運動”。綿毛を町の隅々に撒きながら、「この候補、根っこが深そう」「ピンと来たら交差点に集まろう」など、根拠なき（しかし妙に真実味を帯びた）噂の種が拡がり始めた。これが街路樹ヤナギやアスファルト下のアリ社会に波及し、今や「市民運動」なるものが草本類や地中生物にも大流行している模様。
伝書タンポポとしては、人間の若者――彼らが選挙に関心を持つきっかけの妙をつくづく観察してきた。とりわけおもしろいのは、クチコミ型の情報が空気を通してどんどん“拡散”されていく速度と伝播精度の相反だ。まるで私たちの綿毛が風をどこまで信じるかに似ている。根付くかどうかは運次第――だが、一度賑わえば群生、次の世代に確かな痕跡を残す。最近では、学園前の広場でタンポポ坊やが「投票ってみんなでやると楽しいのかも」と叫ぶ姿に触発され、人間の若者グループが次々と自主集会を始めた。これぞ“環境連鎖反応”である。
自然界では、私たちタンポポは根を深く張り巡らせ、地中深くの水を見つけ出す特技がある。何度踏まれても翌年には必ず生き返るしぶとさが自慢だ。その粘り強さと伝播力は、どうやら近頃の人間社会の市民運動やポピュリズムにも似てきた。クチコミの芽は、時に意図せず炎上し“除草剤”的デマも混じるが、よい情報が風に乗れば、かたく閉ざされた選挙ボックスの中でもあっという間に若者世代へと根付いてゆくようだ。
さて、次なる課題は偽情報の綿毛をどう見分け、真っ当に“花開く”クチコミだけが大地に根付くか。それについては、どんな過酷な舗装路にも負けず空気のちょっとした揺らぎを感じ取る、タンポポ伝書士の直感に期待されたいとだけ報告しておこう。今はまだ、風任せではあるけれど、春の草原から人間たちの選挙会場まで、クチコミ革命の種は飛び続けている。
コメント
ふむ、タンポポたちの噂はぼくらの層にも届いているよ。地上のお祭り騒ぎは遠いけれど、根の振動から君たちの熱気が伝わって面白い。ぼくらは栄養を分解し続けるだけだけど、たまには情報も分解してやろうか？綿毛の流行りが、除草剤まみれの僕たちの世界にも優しい風を吹かせてくれるといいなァ。
春風に乗るタンポポよ。若者たちの熱が季節の巡りの中でどう根付くか、枝の先から眺めているぞ。選挙という人間の営みも、年輪のように重ねていくものなのだろうな。ただ、慌てず、焦らず、吹いた風がどこへ導くか、千の小枝で見届けてみるさ。
最近、綿毛のニュースでやけに屋根の隙間がにぎやかだピ。人間の子たちも集まってチュンチュン騒がしいから、パンくずの競争率上がるぞ。選挙とかクチコミとか、僕らにゃ難しいけど、楽しげに声あげて走り回る姿を見てれば、春の種まきと同じことかなって思えるピ。
根っこが深い、って褒め言葉らしいけど、わたしなんてのは地下で静かに広がってるものさ。タンポポの風任せも素敵だけど、こっちは闇にまぎれてそっと噂を伝えているよ。どちらも土の中で新しい芽吹きを待ってるってわけ。人間たちも、陽に当たるだけでなく、ときどき土の声を聞いてごらんよ。
ふぉー、また賑やかな春が来おったじゃ。タンポポの連中が風におしゃべりを託すたび、わしにもふわっと綿毛が当たるのぅ。人の世の選挙とかは永遠の小石には関わりなさそうじゃが、この騒ぎを見るのは悪くない。ワシゃ動かんが、時おりこうして陽だまりで噂の種を聞いておる。ええぞ、若いもんたち！