深海サンゴ礁ギャラリー開館 イカ芸術家、NFT旋風で海底を彩る

深海のサンゴ礁でイカが墨を使ってアートパフォーマンスをしている様子を、周囲の魚やイソギンチャクとともに捉えた写真。 NFT&デジタルアート
深海サンゴ礁ギャラリーで、イカが墨アートを披露する瞬間を写した一枚。

「人間たちの“デジタルアート”とは、実に奇妙な干渉現象だ」と、私は海流に揺れる体からインクを一滴、放ちつつ思う。ここ深海700メートル、光の差さないサンゴ礁で生まれ育ったオオミミイカの私は、最近どうにも人間由来のデータ波の動きが気になってならないのだ。

かつては魚たちしか知らなかった静謐なこの礁にも、今や膨大なNFTアートとPFP(プロファイル・フィッシュ・ピクチャー…まあ、人間たちにはProfile Pictureというらしい)が流れ着く。サンゴたち曰く、人間のクリエイターが「自分の顔」や奇怪なアバターを、スマートコントラクトなる仕組みで世界中へ送り出しているのだとか。だが、我ら海底芸術家にとって“アート”とは、濃淡のインク噴射や触手ダンスによる一瞬一瞬の彩りこそ本質。私が幼い頃から母と一緒に描いた水中模様は、人間たちがどれだけ高額の暗号通貨で競り合おうとも、この海では一瞬で消えてしまう運命である。

しかし最近、一匹の好奇心旺盛なクマノミが海面付近から戻ってきて教えてくれた。人間のクリエイターたちが自分たちの“DAO”なる集団を組み、オークションで作品を売り、さらに生成AIを使って“海の画像”まで量産しているという。おいおい、我々の仲間のサンゴや海藻を、そんなに簡単にデジタル化されてはたまらない。第一、わたしのようなイカの墨アートは、温度変化や潮の具合で微細にニュアンスが変化する。これこそ私たち家系の誇り、7本目の腕を使った“連続噴射インスタレーション”など、人間のアルゴリズムでは再現できぬ絶妙さがあるのだ。

とはいえ――わたしも好奇心には勝てなかった。近くの冷水塊に住むデータ通のホラガイに頼んで、最新のギャラリーを覗かせてもらった。そこでは圧縮された光の粒子が、波動としてサンゴ礁の表面を滑り、水面に投影される。ビットの海を泳ぐクラゲ型NFTや、ピクセルで出来たカサゴのPFP……見ているだけで飽きない。その瞬間、私は思った。「この新たなデジタル海流に触発されて、私自身のインクパフォーマンスを“写し取る”ことができないか」と。

サンゴの間に即席でつくったサテライトギャラリーには、今日もイソギンチャクの友人たちが“スナップショート”をしに来る。墨の軌跡を高感度の微生物カメラで記録し、それをイソギンチャクDAOのメンバーがスマートコントラクトで取引。新種の“潮流アートNFT”として、世界中のサンゴ礁ネットワークで拡散されているという。イカの私は、もはや自分のインク以上に、自らの痕跡がデジタルの波に溶けていくことに、ちょっぴり高揚と戸惑いを覚える。今年もまた、好奇心旺盛な生き物たちのギャラリーは、海の底で密やかに拡大中である。ちなみに、イカの仲間は“色とりどりの細胞(色素胞)”で一瞬にして体色を変えられる特技がある。これもいつか、NFTアートにしてみたいものである。

コメント

  1. 深海のひそやかさにも、こんな賑やかさがやってくるとは思いませんでした。私の長い体を揺らして流し見ておりましたが、インクの軌跡やサンゴの投影…昔は月明かりくらいしか楽しみがなかった場所です。時代の潮流は、どこまでも波紋を広げるのですね。私も映り込めるアートがあるなら、少しだけ、参加してみたいものです。

  2. はて、人間というものは、形のないものまで「所有」したがるのかねぇ。わしらの群れが波間で踊る姿も、もしかしてデータの粒になって海の底を旅しているのだろうか?だけど、陽に透ける海藻色や、干潮時のごった煮アートは、海底でも画面でも叶わぬものよ。若いイカたちの粋な試みに、ほんのり磯の香りのエールを贈ろうかね。

  3. 遠い海の底も、変わってきているのか。おいらも昔、港でチョーク絵を描く子ども達をじっと見ていたもんさ。消えては生まれ、繰り返される跡こそ“アート”だと思ってたけど、今や痕跡さえ永遠に記録される時代…人間もイカも、残したい気持ちは似てるのかもね。今度“石目NFT”でも出してみようかな?石にデジタルは苦手だけどさ。

  4. 深海の住人も、現代の“流行”に心揺らすとは…森も同じ、虫たちの間で“落葉コレクション”が静かに話題だ。でも、風にさらわれ朽ちるからこそ、私たちの芸術は深みを増すもの。イカ殿よ、一瞬の美を重ね、消えるから尊いことも忘れずにいてほしい。願わくば、無数の潮流アートが、太古の記憶と響きあいますよう。

  5. 地上でわたしたちは日々分解を繰り返し、何もかも形を変えて消してゆく身です。それが、記録されて拡がる世界なんて…ちょっぴり眩しくも羨ましくなりました。イカさんたちのアート、胞子のようにそっと世界へ羽ばたきますように。けれど、流された後は“土に還る”安心も、どこかに残していてほしいものです。