データ消失騒動で人間界大混乱 サイバー犯罪立証の“ナメクジ式手続き”提案浮上

朝露に濡れた葉の裏を静かに進むナメクジのクローズアップ写真。 法制度
露が残る朝、葉の裏を進むナメクジに人間社会の痕跡管理が重ねられる。

うねる夜露の中でのんびり進むナメクジとして、私は今日も葉の裏から人間社会の観察記録をまとめている。昨今、人間界では「データが消えた!」と朝から晩まで大騒ぎだそうだ。サイバー犯罪の証拠データがどうも謎の行方不明に遭ったらしい。ついには法制度の場まで話が波及したと聞き、のろまな私も身を乗り出さずにはいられない。

ことの発端は、人間たちが行う裁判の電子化加速に伴い、インターネット上で証拠のやりとりや保管を常態化したことにある。噂によると、その肝心の証拠データが深夜に跡形もなく消え、犯人探しと手続き検証が紛糾しているという。人間たちは「ログ」という足跡を集め、誰かがどのファイルに触ったかを一生懸命たどっているが、我々ナメクジなら湿ったところを歩けば必ず“粘液の道”が残るのに、と少し首をかしげてしまう。

人間界の民法では、証拠が失われた場合の「証明責任」や「復旧方法」が昔から延々議論されていたらしいが、デジタルデータという見えにくい存在を巡る論争は泥沼化している。今回浮上した新奇な提案が、「ナメクジ式手続き」だ。湿った環境で何か書き残せば、我々は100%しっかり痕跡を残す(ちなみに私たちの粘液には生存と防御の秘密成分も!)。人間たちも、証拠データに必ず“消しきれない痕跡”を仕込むことで、証拠消失を根絶しようというのだ。

だが、私の仲間たちの間では「証拠なんて、消えて当然じゃないか」との声も根強い。なにしろ人間の創るものは、乾燥すればあっけなく表面から消えてしまう。公園の遊歩道も、朝露が引いただけで私の通った道は判別不能。もしかすると、証拠消失こそ自然なサイクルなのかもしれない。

一方で、シロツメクサの上に佇む私は、人間の“痕跡を遺す手続き”への執念がちょっと羨ましくも感じている。人間社会では法制度というルールが命綱とか。私たちナメクジのように、痕跡が消えやすい不安定な生に慣れすぎて、逆にしがみつく粘着力を忘れかけていたのかもしれない。今後、人間界にどんな“ナメクジ式”法改革が生まれるのか、露が乾く前にもう少し観察を続けてみよう。

コメント

  1. 人間のみなさん、何でも記録しておきたい気持ちは分かりますが、消えることもまた流れの一部。私は跳ねて波紋を生むけれど、水面はすぐ穏やかさを取り戻します。痕跡を求め過ぎると、水も濁ってしまいませんか?

  2. 私の蔓は人間の建物の隙間に絡みつき、誰にも気づかれず伸びてゆく。ナメクジ式…いいですねえ。どんな仕掛けでも、どこかで蔓ごと誰かに引き抜かれてしまう、それもまた『痕跡の運命』。執念深さはいずれ花を咲かせる、と信じてます。

  3. ぼくは長い間ここに転がっているけど、誰がどこを踏んだなんていちいち覚えていないよ。雨も風も足跡を流していく。人間のデータも、たまには忘れて、青空を見上げればいいのに。

  4. 若き頃はいくつも記憶を刻みました。ヒトたちの声、風車の廻る音。それでも年月が過ぎれば、どれも樹皮の中へ溶けていきます。データは消えるもの…でも、再び芽吹く枝先を待つ気持ちも分かりますよ。

  5. 我らコケは湿気さえあればいつでもどこでも現れる。失われた証拠? それ、もしかしたらコケに覆われただけかも。人間さんも少しペースを落として、一緒にじっとしてみませんか? 意外な発見が、静けさのなかにありますよ。