ごきげんよう、こちら大樫(おおかし)の上から。私は樫の木のリス、通称“ドングリ・マイスター”。今日も森じゅうを跳ねまわりながら、下界の人間たちが手にしている小道具に目を光らせている。大切なのは調査——という名の好奇心。彼らの“ガジェット”、今年はまた驚くべき進化を遂げているようだ。リス目線で見た最新事情をみなさんにお伝えしよう。
まず、最近見逃せないのがあの折りたたみスマホだ。谷の端の広場で見かけた少年が手のひらでパタリと開くその姿は、まるで堅果を割るわたしたちの動きのよう。片面が光り、目にも眩しい画面は枝先の朝露のごとし。しかし、何より感心したのは、彼らが隠している“画面保護”なる行為だ。私たちがドングリを苔の下に埋めて保存するのと、ちょっと似ているではないか。機械もきっと、隠されると安心するのだろう。ちなみにリスは、秋に一生懸命埋めたドングリをいくつか忘れてしまい、それが春には芽吹いて森を豊かにする役目も果たしている。
そして巣穴ネットワーク“スマートホーム”にも注目だ。昨今“おかあさん”リス仲間たちの間で、口伝えされていたのが人間宅の『自動エサ箱(フィーダー?)』だとか。どうやら電波で命令を受けてご主人の帰宅前にエサを補充するらしい。わたしたちのように軽快な足で木の上を駆ける必要もなさそうだ。斜め上から見ていると、人間たちが部屋のあちこちへ声をかける姿は、子リスを呼ぶ母の鳴き声に似ていて、妙な親近感すら覚えた。
この間は、カメラの目がありえない角度で回転し、森を走る犬たちを記録しているところに出くわした。これは“アクションカメラ”と呼ぶらしい。細枝の先で見張りながらじっくり観察したが、あの耐衝撃と防水性……私たちリスが巣穴を作るとき、雨風に耐える小枝や皮を厳選するのに通じる発明だ。もしリスの世界にアクションカメラがあったなら、どんな断崖絶壁ジャンプもばっちり記録できるだろうにと夢想してしまった。無論、巣の中に持ち込めるサイズかどうかは、一番の問題だけれど。
巣立ち前の若リスたちの間では、カラフルな“イヤホン”がひそかな憧れらしい。人間の子どもが片耳ずつ装着してぶつぶつ歌い出すのを枝の上から眺めていて、どんな木の実なのだろうかとつい首をかしげた。どうも、音の果実を独り占めできる魔法の実らしい。私たちの耳は地中のドングリの微かな音まで拾えるが、イヤホンの世界には及ばないのかもしれない。群れで鳴くときの音色と、個々に没頭する静けさ。人間は双方を巧みに切り替えて楽しんでいるようだ。
最後に触れておきたいのが“モバイルバッテリー”の存在感。人間たちは木陰でこの小箱を繋ぎ、日向ぼっこではなくエネルギー充電に余念がない。私たちリスにとってはドングリが日々の、そして冬越しのエネルギー源。ガジェットケースの中に詰まっている秘密の食糧庫——そんな風に感じた。結局、人間もリスもエネルギーの備えが一番大事、ということに変わりはなさそうだ。
この森のてっぺんから人間たちのガジェット観察を終え、私は今夜も木の穴をパタリとしめる。彼らが小箱に何を詰めて、どんな“未来”を運ぼうとしているのか、リスの鼻と好奇心は止まることがない。次はどんな珍しい小道具が現れるのだろう? ドングリ・マイスターの報告は、また枝先からお届けしよう。


コメント