ぽかぽか陽気に誘われて、森のあちこちがにぎやかになる季節。そんな中、山の北斜面に住み着いて幾代目、我々アカゲラ一族が経営する“樹上穴カフェ”にも、近ごろは見知らぬ足音が絶えず聞こえてきます。どうやら『トレイルランニング』とかいう新手の人間習慣が、我々の静けさを脅かしているようなのです——。キツツキ目目線で事件の真相をお届けします。
本来、我がアカゲラ一族は道なき森の中を暮らしております。幹の皮下に住まう虫を叩き出し、おいしい樹液はヒマな時のお楽しみ。巣穴は毎年家族総出でセルフビルド、ドングリ持ち込み可の人気カフェスタイルが自慢です。そんな私たちの縄張りに、今や週末ごとに溢れかえるカラフルなウエアの人間たち。彼らは決して樹液を飲みに来るわけではなく、どうも“タイム”とか“自己ベスト”とか用事があるらしく、息切れしながら走ってきては木の根元で水を飲み込みます。ご存じでしょうか、去年つがいとなった伯父のドリルは、あまりの騒がしさに持病の偏頭痛がぶり返し、最近は朝寝坊を決め込む始末です。
しかも最近では、『野鳥観察』と称して長い筒(人間の間では“望遠レンズ”というらしい)を持ったヒトたちの姿もしばしば。彼らは私たちの巣穴カフェを発見すると、まるで珍味を見るような目つきでレンズをこちらに向け、会話も忘れ1時間ほどはじっとこちらをにらみ続けるのです。おかげで従業員(つまり私たちの若鳥)はカメラ目線トレーニングに余念がありません。みんな、羽を整えて映えるアングルを学びましたが、決して“映え”が目的でカフェを営んでるわけじゃありません——これ、人間には分かってもらいたいところです。
さらに困ったことに、つい先日カフェ前のコケのラグがぐちゃぐちゃに踏み荒らされていました。よくよく調査隊(親戚のシジュウカラ)が現場検証したところ、なんと“記念写真”の三脚跡と新品のトレイルシューズ型の足跡がしっかり。自然保護の看板も彼らが立ててくれましたが、我が家にとっては“裸足入店禁止”のような勝手ルール。ご親切はありがたいものの、森の掟とヒトの秩序はなかなか重なりません。
それでも、人間たちが山の空気を楽しんでくれているのは、ちょっぴり嬉しいものです。最近は親切なランナーが倒木を移動してくれることもあり、おかげで櫛状の巣穴街道は風通しが良くなりました。とはいえ、静けさの時間と、にぎやかな来客タイム、どちらも森の営みには欠かせません。アカゲラ一家としては、人間たちにも“適度なペースで”“じっくり観察モード”を取り入れた山カフェマナーをおすすめしたいところ。さて、今朝も新しい巣穴席の内装工事、ハンマーがわりのくちばしを鳴らしてがんばります。そこへまた、カラフルな一団の足音……!森の一日、今日も始まります。



コメント
カフェ前のラグ、踏み荒らされたとな……まあ、踏みつけられることには慣れてはいるが、やっぱり新鮮な朝露を味わう静けさは恋しいものさ。人間さんよ、僕んとこでちょいと深呼吸してけば、それだけでも充分リフレッシュになるって、伝えておくれよ。
おやおや、また人間の子らが急ぎ足で山を駆け抜けとるのかえ。昔は川の音と鳥の声、そしてワシらのこそこそ話しか響かなかったもんよ。それでもまあ、賑やかなのも季節の彩り。せめてワシらが春の新芽を伸ばすときは、足元に優しい気持ちを忘れんでほしいもんじゃ。
ああ、写真を撮られるってどんな気分だろう?私は風まかせ、誰の興味も引かず静かに土へ還る。でも、映えを気にしなくていい場所がこの森であってほしいな。どうぞ、みんなもっとゆっくり歩いて、私たちの変化の速さにも気づいて。
どっしり座って何百年、ヒトの波、動物の足、皆通り過ぎていく。靴の跡もカメラの脚も、いっぺんついても雨のあと消えるわい。大事なのは“忘れられた静けさ”をたまに思い出してくれること。森ん中の喧騒も、静寂も、両方あってこその山じゃて。
フカフカのコケも、木の根も、シューズの裏にはちと弱いが、まあ、あれも自然の出会いじゃ。私ら菌類は、踏まれようが激写されようが、命を巡らせる役目に変わりなし。だけど森の『ルールブック』、人間諸君にもページめくりながら歩いてほしいもんですな。