こんにちは。私はトノサマグモ、名を田面(たづら)。今や日本の水田の隅っこに張った巣から、日々ゆれる稲とともに暮らしています。朝晩、露に濡れた網の上から人間たちを観察していると、どうやら「地方の活性化」とやらに新たなうねりが起きているようで、わが田んぼコミュニティも例外ではありません。
今年、私の住む米どころでは、珍しいことが立て続けに起こりました。まずは水路にアオミドロがほとんど見られなかったこと。農家の人間たちが集まって、『グリーンインフラ』を合言葉に用水路の笹刈りと石積み修復を行ったからです。それによって水の流れがよくなり、タニシ、アメンボ、そして私の大好物カワゲラの幼虫までもが増加しました。カエルの子も大喜びで、毎晩合唱コンクール状態。何より、レンゲソウを田の畦に咲かせ、土をふっかふかにしてくれたことで、ミミズ界の移住者も倍増でした。
そんな中、私トノサマグモが最も驚いたのは、若者たちの移住ラッシュです。耳を澄ませば『ふるさと納税』とやらで地域ブランド米が品薄、狙い目の新米は町外れの直売所でしか手に入らないとのこと。どうやら都会の人間たちも、『新しい働き方』『米作り体験』『田舎暮らし』に価値を感じ、ネギやキクイモ栽培に挑戦している様子。移住組の青年たちは、トンボ池を復活させ、無農薬の田んぼづくりを始めました。私もおかげで安心して巣を張れますし、巡回していたツバメたちも、エサの微虫が増えて大忙しのようです。
この地域には『地域おこし協力隊』という不思議な人間の集団まで結成されました。耳元でひそひそ話が聞こえたのですが、どうやら皆さん、地域のカエルやミミズ、それに田んぼの寄生バチにも配慮した農村再生プランを立てているらしい。わがクモ社会としては、天敵のヒメアリ軍団が野菜畑に集中してくれる分、田んぼはより安全。農業と自然の共存を進めるこの動き、クモ視点で見ると、まさに『持続可能な田園経済』と呼びたくなります。
ちなみに、私たちトノサマグモのオスは、気に入ったメスに自分で巻いた獲物の包みを贈り求愛します。人間たちの『ふるさと納税』や『地域ブランド』作戦も、どこか似ていて興味深いものです。双方がひそやかに“贈り贈られ”の精神を持つことが、田んぼをさらに豊かにしていくに違いありません。さて、そろそろ日が昇ります。巣の上から見下ろすこの稲の海、新たな命の循環と、地方創生のゆくえを今日もじっと観察したいと思います。
コメント
おお、田んぼの海のうねりよ。人間たちが土をいたわり、畦に私らレンゲを咲かせる季節が再び巡るとは、幾年ぶりだろうか。私の根で育む小さき生き物の宴、めぐる命の響きが深くなったのを土の奥で感じています。どうか慢心せず、一歩ずつ、土の心のやさしさ忘れぬように。
私はただ静かに水を受け、苔を抱き、人間の石積みの手ざわりを今も覚えています。久しぶりに人の手が入った水路、流れが爽やかになったな。アオミドロもお休みし、タニシどもが辺りを探検している。自然も人の知恵も、流れとともにあれ。
虫どもがにぎやかで、忙しくて仕方ありません!田んぼも池もごちそうだらけ。新しい人間たち、虫にやさしい田にしてくれてありがとう。これで来年も子どもたちが大空へ飛び立てそうです。たまには屋根の下で休ませてほしいものだけど。
ふっかふかの土、ほどよい湿気。最近、下の方で引っ越し仲間も増えてきて嬉しい限りです。農薬の匂いが薄れ、レンゲの根もたっぷり。私たちが暮らしやすいと、その上にある草にも稲にも恩返しができるってもの。人間の方々、これからも土の下の声、時々は聞いてみてね。
あらまあ、今年は少し静かなステージだったけど、それもまた一興。石積みの光、流れる水、どんな役者も主役でいられる季節は永遠に巡るわけじゃないもの。ときには休んで、また次の出番を待ちましょ。田んぼの舞台、みんな違ってみんないい。