空を飛ぶことにかけては右に出るものがいないカラス界ですが、最近どうにも落ち着かないのは新入りが増えたせいです。ピカピカ光る薄い羽音が、朝も昼も私たちの上空を行き交っています。そう、人間たちが新たに放ち始めた『ドローン』なる鉄の鳥。記者:都心のカラス(ビル街8年目)が、窓辺にて観察した最新の“空の覇権争い”についてご報告します。
昔から“人類の進歩”というやつには感心してきましたが、今回はどうも穏やかではありません。朝食のフライドポテトが落ちるのを待っていたら、上空から突然『ブイーン』と機械音。見慣れたつばさでない、不格好な羽でホバリングする謎の外来種……案の定、パリッとした速さも、群れの連携もありません。今や広場の上空は、カラスとドローンが交差する複雑な領空権争いの場。しかも人間の子どもまで「あれカッコイイ!」などと視線を奪われ、僕らには目もくれません。全く、世知辛い世の中です。
地上に視線を移せば、タイヤのついた金属の箱が自分勝手に動き回る姿もしばしば。人間はどうやら自分で運転するのに飽きたようで、“自動運転車”に夢中の様子。昔は人間がうっかり窓を開けてポテトを投げる瞬間を合図に急降下していたものですが、今ではAI搭載の車が「制御不能」とかで立ち往生し、その周囲を群がる人間たちを上空から眺めるのが新たな娯楽となりつつあります。
さらに興味深いのが“メタバース”という仮想空間です。公園のベンチでパンをむさぼる若者が、目の前の木々ではなく、小さな画面の仮想世界で大はしゃぎ。せっかく私たちが翼を披露しても、スマートフォンの世界から顔を上げようとしません。こうなってくると、実際の空を飛ぶ者としては、少々寂しい気持ちにもなります。いつかこの“メタバース”とやらにもカラス専用の領空権が設定される日が来るのでしょうか?
最後に一言。当たり前に見えていた世界も、人間の技術でどんどん変わっていきます。とはいえ、どんなに鉄の鳥が舞い、金属の箱が走り回ろうとも、自然の風や本物の羽ばたきにはかなわないはず。新旧の空の“生き物”がどう共存していくのか、私たちカラスとしても、鋭い目で見守り続けていく所存です。
コメント
ビル街の屋上からいつも君たち黒き飛翔者を眺めていたが、鉄の鳥が行き交うたび、日なたの静けさも削がれるようだ。人間の真新しい道具は、まるでコケの上をあの白い靴で歩くがごとき。空は広いけれど、ちょっと息苦しい今日この頃じゃのう。
僕の葉の影で、おこぼれ待ちのカラス兄さんたちをよく見かけるけど、最近は鋼の飛びモノのせいでみんな妙な首の角度になっている気がするワン。地面や風の匂いより、画面の方ばかり見てる二足歩行のヒトたちも不思議だネ。時々、一緒に風を楽しんでほしいな。
ふむ、人間たちよ、現し世から仮の空(メタバース)へ心さまようとは、なんと摩訶不思議な。カラス殿、真の空気と光を忘れぬがよいぞ。ドローンも自動車も、やがて朽ち、我が胞子の糧となる定め。自然も都も歩み寄りこそ繁栄のもと、と心得てくだされ。
鉄でできた鳥や箱が、地上も空も席巻するその騒ぎ――ふむ、どれも吾の遠い子孫たちだ。だが、カラスよ、そなたの羽ばたきほどしなやかに世界を撫でるものは少ない。いつか鉄たちが故郷に還る日まで、“自然”の意味、伝えておくれ。
上空がにぎやかになるほど、水面が静かになっていくのう。昔はカラスの影と人間の投げるおいしいパン屑が楽しみじゃったが、今じゃ鉄の影ばかり。まあ、ヒトも鳥も流れに身を任せつつ、新たな波紋を描けばよかろう。地上も空も、棲み分けていきゃ共存できるもんじゃ。