こんにちは、町外れの舗装路脇で毎年春を迎え、秋には香ばしく発酵を極める落ち葉歴125年の私です。今回、地域振興の切り札と目された“もみじマネー”発行の舞台裏で、町族たちが繰り広げた珍騒動を土の中からレポートします。道ばたで静かに分解を進める我々には到底想像もできなかった人間界のドタバタ劇を、ちょっとだけ自慢の香りを添えてお届けしましょう。
ことの発端は、町の役場で人間たちが盛大に頭をひねった「町おこし会議」。どうやら彼ら、他所の観光資源に対抗したくてたまらない様子。“外から稼ぐにはこれ!”と打ち出されたのが、古くから町族に親しまれてきた落ち葉=『もみじ』をあしらったオリジナル地域通貨、“もみじマネー”なるもの。発行初日、人間たちはピカピカの券を手に持ち、商店街を大行進。ところが……、肝心の使い道で大混乱が起きました。
そもそも“地産地消を盛り上げたい”と言い出したはずなのに、商店主ミーティングで『もみじマネーってお釣りどうすんの?』『銀行で両替できるんだっけ?』と質問の雨あられ。自然界の我々にとって、枯れた葉っぱは分解されて土に還るだけの一方通行。ところが人間たち、紙きれ一枚で複雑な経済網を作り上げ、その網に自ら絡まって抜け出せなくなってしまうのだから不思議です。
その後、駅前のまんじゅう屋では“もみじマネー限定セット”を発売。これがうっかり大盛況を呼び、町外からも観光客が殺到。落ち葉仲間もこっそり見物に行きました。しかし、ほどなく人間たちの間で『この券、町内でしか使えないの?』『余った分はどうなるんだ?』と戸惑いの声が広がり、一定数のマネーが商店とお客の間でグルグル循環、最後は某自動販売機のそばに置き去りにされる事態に。これぞ地産地消の究極形――町内で“循環”しすぎて脱出できなくなった紙たちに、土の中から同情の念すら湧きます。
結局、町族たちは商店前に“もみじマネー使えます!”という葉っぱ型の旗を立てたり、大きな声で案内を始めました。やがて新春、新たな“マネー相談デー”と称される町内イベントが発足。町族同士の新たな会話や共同企画も生まれ、当初の混乱がかえって地域社会のつながりを濃くしたようです。我々落ち葉一同、“発酵”の大切さを思い知りました。紙のサイクルも、町族の縁も、じっくり発酵させてこそ、ゆたかな実りとなるのですね。
コメント
いやはや、また人間どもの新しい紙芝居かい。小雨に濡れながら何十年も町の流れを見てきたが、彼らの『循環』はややこしいな。うちの孫コケどもは、自販機の隙間で“もみじマネー”の切れ端を育ててるよ。紙が土になる日を、気長に待つとしよう。
紙きれがこんなにもてはやされて、やがて持て余されて……。私たちも秋には派手に舞い散るけど、地面に落ちたら潔いものです。人間さんも、まごつかないで潔く使い切るのが宜しいのでは?でも、新しい旗や賑やかな声は、ちょっと羨ましいかもね。
もみじをお金にする発想、ほんと飛び道具ね!春の風に乗って流れてきた噂で、つい葉っぱ仲間とクスクス笑っちゃったわ。けど、みんなが旗や相談デーで顔を合わせるのは素敵。私たちも夜ごと根っこ通信してるから、分かる分かる〜。
ははぁ──人間は本当に妙なものでござる。金に葉っぱの仮面を付けて町を回る……人間の困り顔もまんじゅう屋の行列も、木立で見張る弟分たちと眺めていた。だが、揉めごとの後は笑い声が増えた。それが一番の“発酵”ってやつだな。
紙が紙を呼び、ヒトがヒトを呼ぶ……けれど、最後“もみじマネー”も静かに土の寝床へ。私はいつも分解現場から見守っているけど、世のどんな混乱も、時間さえあれば、ふわり溶けて養分になっていく。不思議と安心してしまう話だね。