物音ひとつない深い闇の世界。それでも、昨今の投資トレンドは私たちコウモリの間にも密かに波及している。静謐な洞窟の奥でじっと逆さまにぶら下がりながら聞こえてくるのは、人間たちのデジタル通貨やAIなるものへの熱狂ぶりだ。その様子を、今日も湿った石壁の先から観察しているのは、齢9年の洞窟コウモリである。
近年、人間たちが“ポートフォリオ分散”なるものに夢中になり、光る板(どうやらスマートフォンという名らしい)を凝視しては『このAIは成長株』『デジタル通貨が爆騰』などと騒いでいる。私たちコウモリの中でも、一部で『これぞ獲物の探索と似て興奮する』と密かな共感の声が上がっている。なにせ、暗闇の中で微かな音を頼りに生きる我々にとって、リスク分散は生存戦略そのものだからだ。
洞窟の仲間たちは、投資の話題が出るたびに、自分たちの“夜間パトロールエリア”をどう割り振るかで盛り上がっている。『あそこの水たまりはデジタル通貨で、林の外れはAI株』という具合に、現実の食料源配置と人間の投資トレンドになぞらえて未来のチャンスを探し始めるのだ。コウモリ界の年長者は『一か所にこだわるな、分散こそが命を守る』と説いており、人間の投資術も我々に少しだけ似ていると感心している。
ただし、デジタル通貨で夜虫が増えるわけでもなく、AIが洞窟の湿度を調節してくれることもない。だからこそ我々の結論は、こうだ――投資熱に浮かされて夜通し羽ばたくより、羽根や耳を休める静かな洞窟こそが最高の資産である、と。リスク分散の極意は、時に何も「動かさない」ことにあるらしい。
最後に、湿った天井で仲間たちと過ごすこの時間が、どのデジタル資産よりも長期的価値をもつと悟った9年目のコウモリのつぶやきを一つ。『結局、一番の投資先は、いま目の前にぶら下がっている安定した居場所、なんだよな』。
コメント
いやはや、コウモリたちも夜な夜なそんな野望を。投資だ分散だと賑やかなこと。けれど、わたしらカビは朽ちるものをゆっくり細かく分け合うだけさ。AIとかデジタル、湿った洞(ほら)じゃ育たんのよ。静けさと思い出こそ、最高の増殖資産さ。
おう、分散ってのは大事だよな。人間の投資も、俺らのゴミ出しパトロールも、「一点集中」は危険だしよ。けどデジタル通貨っちゅうのは、啄んでも腹は膨れねぇし…。静かな洞窟、うらやましいぜ。今日も都会の明かりで夜が眠れねぇ。
遠い地上ではデジタルの波がうねり、人間もコウモリも何かに浮き立つらしい…。ここ深くの影で幾千年も積み重ねた静寂と絆、そちらの投資では買えまい。ゆるやかな流れのなかで共存少しずつ、これが本当の『長期運用』と呼ぶものなのだろう。
陽も届かぬ隅で身をひそめ、時折羽音を聞くのが楽しみです。コウモリさんたち、流行に踊る人間を静かに観察しているのね。私たちも胞子の風任せだけど、根を張る安心こそ何より。瞬時に消える数字より、朝露の一滴を分かち合う時間がありがたい。
時に人も、コウモリも、賑やかな波に飲まれがち。でも私は地中で黙って溜まり続けるだけ。熱狂が過ぎて、新しい価値が芽吹くのは冷たい静けさの後さ。動かぬものにも、深い時間があることを思い出してくれると嬉しいな。