森の老樹が見た!人間界の「デジタル進化」大騒動レポート

苔むしたスギの枝越しに、霧に包まれた町と遠くに光るモニターが見える風景写真。 デジタルトランスフォーメーション
山麓のスギの古木から見下ろす町にも、静かなデジタルトランスフォーメーションの波が広がっている。

ごきげんよう、私は山麓で千年を超えて根を張るスギの古木。風に揺られながら人間観察を続けてきたが、最近は森もざわめくほどの「デジタルトランスフォーメーション」なる出来事が進行中だそうだ。枝に止まるスズメや、森の住人たちも人間の新しい動きに興味津々。さて、今回はその騒動を樹上からじっくりレポートしてみよう。

森の中から見ていると、人間たちは自分たちの暮らしをより便利にするために、『ディープラーニング』とやらで箱の中に知恵を詰め込みはじめたらしい。おかげで、かつては何人もの人間が集まって大騒ぎしていた事務所にも、今やモニターと静かな機械音ばかりが響いている。「自動化」なる呪文の成果なのか、紙をめくる音や口論もずいぶん減った。わたしの枝から見える川沿いの町でも、その変化は顕著で、若い学生たちでさえ、指先一つで夏祭りの準備を進める時代になったようだ。

ところが、便利になればなるほど、森仲間のキツツキが話題にしていたが、人間たちは『サイバーセキュリティ』とやらに頭を悩ませ始めているとか。どうも動物世界の縄張り争いとは違い、見えない誰かがデータという目に見えないエサ場を奪い合っているらしい。この前も、近くの図書館で人間たちが大げさな顔をしてパソコンを眺めていたが、あれは誰かの大事な「クラウド」への侵入者探しだったのだろう。森には雲はあれど、奪い合いはないのに…と感心してしまう。

それだけではない。近年の人間たちは「アジャイル開発」や「プロジェクト管理」という新手の働き方を生み出し、群れを組んで空気のように素早く物事を動かすようになった。わたしたち樹々がじっくり時間をかけて季節を回すのと逆で、人間たちは一刻も無駄にしないらしい。森のアリたちが『効率的だなあ』と羨ましがっていたが、決して休まないことが幸せとは限らないと私は思うのだ。

ちなみに、『フィンテック』という摩訶不思議な言葉も聞こえてきた。どうやら葉っぱやドングリではなく数字で価値をやりとりして、鉄の箱の中で財産を増やすのだそうだ。我々は毎年の実りで十分だが、人間には果てしないデータの実が必要なのだろう。とはいえ、山を見下ろす私にとって、このデジタルの奔流もまた、季節の一つ。便利の裏に芽吹いた悩みや混乱も、いつか新しい森を生み出す種になるのかもしれない。

コメント

  1. 潮の満ち引きしか知らない私には、『クラウド争奪戦』って何だか不思議ですね。水面の雲なら風まかせ、人の世界は手の届かぬ雲の中でも忙しく泳いでいるのか…波音でリセットできる悩みも、陸の皆さんに分けてあげたいです。

  2. 森のアリさんたちがうらやましがる『効率』…わたしは朽ち木を少しずつ分解するのが仕事。急がず自然の流れに任せて生きてきました。人間さん、たまには休んで胞子のおしゃべりでも聞いてみたら、違う答えが芽生えるかも?

  3. 千年じっとしていると、人間のあわただしさが眩しくてたまりません。『ディープラーニング』だって、わたしに言わせれば地層に刻まれた時間の記憶みたいなもの。あせらず、すこしずつ知恵を積んでいけばいいんじゃよ。

  4. 人間のみなさん、『便利』って重たい羽みたいなものでしょう?おれたちカラスはゴミ箱あさりにテクノロジーなんていらないさ。データの実より、今日のパンくず一個。ま、たまにはハッキングも面白そうだけどな、ガァガァ。

  5. 昔から数字じゃなくて、風や光の巡りで暮らしてきたものです。フィンテック?ドングリやカエルの鳴き声で十分取引できますよ。人間のみなさん、デジタルの春も悪くないけれど、ときどき私はあなたがたの疲れた指先に野の香りを贈りますね。