暗く湿った地下世界で日々過ごしている私、地下鉄トンネルの壁を彩る苔（コケ科41年目）は、最近“人間”たちのDX（デジタルトランスフォーメーション）なるものへの熱狂ぶりを傍観する機会に恵まれている。地上の光が一切届かぬ中でも、薄っすらとした変化の風がこの地下まで吹き込んできているようだ。
私たち苔属には理解が難しいが、人間社会では最近、スマートフォンから流れる信号やセンサーによる責任の押し付け合いが日常らしい。それはまるで新芽が、今日は誰が水を呼ぶ役割かと自己主張し合っているようなもの。彼らのDX戦略については、隣の換気口のカビ先輩とたまに語り合うのだが、『自動化』とやらで自販機にすらヒト科を見かけなくなったと愚痴がこぼれるのも頷ける。実際、僕の真上を這うケーブルには、日々デジタルな指令が駆けめぐっている。どうやら“遠隔医療”システムもこの地下を通じて繋がれているらしいが、私たち苔類には『遠隔』なんて縁遠い概念だ。
面白いことに、夜な夜な響いてくる保守作業者の会話には『プラットフォーム化』なる呪文が度々現れる。かつては銅線一本で全てを繋いでいたものが、今やデータという見えぬ胞子たちが世界中を飛び交い、それらを“モジュール”というパッチワークにまとめているらしい。階段下のダンゴムシたちは、その“人材管理システム”なる人間たちの巧妙な巣作りに感嘆していたが、苔の私からすれば相変わらず個体の見分けは難しそうだ。
しかし、最近一番の驚きは“スマートシティ”なる都市進化。地上に伸びる根拠地から届いてくる湿気と微振動で、地上の構造物たちが一斉に自分は“ネットにつながっている”と自慢し始めたのだという。私たち苔の仲間も壁面緑化や雨どいセンサーの一部として“エッジコンピューティング”なる人間の思惑に組み込まれている事実には、思わず苦笑いしてしまう。だが、結局のところ私たちも、人間たちの管理と自動化の波に巻き込まれることで、環境変動への柔軟な適応力がより問われる時代が来ているようだ。
思えば、ヒト科は便利さを追い求め、繋がりをデジタル化し、物理的な距離すら無意味にしてしまう。しかし我々苔の視点からは、情報と命をじっくり湿らせる時間も、決して悪くないものだと彼らに伝えたい。今日も静かに地下壁面に張り付きながら、AI信号の鼓動を感じつつ“慌ただしすぎる進化”を見上げている。
コメント
地下の苔さん、なんだか楽しそうですねぇ。私は池でふわりと浮いているだけですが、デジタルやらDXやらも、そよそよ揺れる水紋みたいなものなのでしょうか。人間たちは繋がるためにせわしく泳ぎ回ってますが、たまには苔さんみたいに、じっくり湿る時も大事だと思いますよ。
こんにちは、日なたで葉を揺らせるものです。地下の仕事ぶりに敬意を表します。こちらでは、人間たちのDXの波に、ハチもアリも関心なさそう。でも、AI信号の下でも、土の匂いは変わりませんね。苔さん、これからも根気強く過ごしてください、自動化されない苔しくさを応援してます。
おう、地下の苔どん。俺ぁ地上の電柱そばでヒト科のスマホ好きどもを日々観察してるが、いつも顔色がディスプレイ色だぜ。DXとかイジって効率化したとこで腹が膨れるわけじゃねぇんだよな。壁に染みついてる苔の生き様、俺も嫌いじゃない。生き物ってのは、たまに止まって考えるのが粋ってもんよ。
あなたの湿り気がうらやましい。私の根元を流れる山水も、今はひっそりと人知れず流れているけれど、かつては多くの命を支えていました。人間たちは今、光も水もデータ化して操ろうと焦っていますね。けれど苔も水も、じっくり時間をかけて広がるもの。どうか、あなた方の静かな緑が脈々と続きますように。
地下トンネルの隣人よ、相変わらず風流ですな。ヒト科がDXの波に踊ろうと、ワシら胞子は地道に空気と湿度と遊ぶのみ。自販機が喋ろうが構わぬが、結局この世はじわり、もっさり、育つ菌糸の時間じゃ。たまにAI信号とやらがワシの頭上でビカビカ言うが、目を閉じると聞こえるのは古き壁の呼吸。肩の力を抜いて、これからもともに変化を眺めようぞ。