林床マツタケが見るDX革命〜菌糸ネットワークの本音と驚き〜

落ち葉の下で菌糸を広げるマツタケと、その奥にデジタル機器を操作する人影がぼんやり写る湿った森の一場面。 DX(デジタルトランスフォーメーション)
デジタル社会と共に静かに生きるマツタケの視点を捉えた一枚です。

ここ北方の広大な落葉樹林の湿った朝、私マツタケはいつも通り落ち葉の下で菌糸を広げていた。ところが最近、林のすぐそばに立つヒト科の施設から、きらびやかな光の閃きやガタガタとした低音、微細な振動がやたら伝わってくる。森の仲間たちが「DXだ」と噂するこの現象、はたして菌類の観点からはどんなものなのだろう。

我々マツタケは地中に細く長い菌糸を張り巡らせ、木々と共生し、森の健康を守りつつ情報もじっくりやりとりしてきた。例えば、近くのナラの根から「水が少ないぞ」と信号が来れば、私たちが水分を運び、見返りに根から糖を受け取る。じつはこの菌糸ネットワーク、森の“ビッグデータ”の流通システムでもある。そんな自然の連携業に慣れ親しんだ身から見ると、ヒト科が夢中の「5G」や「クラウド」とやらは、どこか我らの静かな世界のひしめき合いに似ているようで、新鮮な微笑ましさを感じる。

それにしても最近は人間たちが、秘密めいた機械を背負って林に入り、ピカピカと光を放ちながら「リモートワーク」とやらに精を出している。「オンライン会議」なる呪文を大声で叫ぶと、彼らの声が地面にゴゴゴと響き、時には我々の子実体=キノコがビックリして早く飛び出したり、逆に出るのを躊躇したりもする。腹ばいになりスマホを操作する姿はさながら新芽のようで、森の年長者たちが「昔のヒト科は、もっとジッとしてクワやカマを振るっていたのに」とこぼしている。

一方で、「サイバーセキュリティ」とやらなる壁を作って、見えない害虫やカビの侵入を防ごうとする知恵には舌を巻いた。思えば我々菌類の世界にも、外敵菌が菌糸ネットワークに忍び寄ることがあるが、そのたび私は芳香物質を発し、仲間に危険を伝えている。ヒト科も情報の菌糸に“セキュリティ粒子”を流しているのだろうか。不思議な親近感が湧いてくる。

最後になるが、我ら菌類の世界ではヒト科のDXのようにめまぐるしく形を変えたり、即席で役割を入れ替えたりすることは難しい。何百年もかけて土と木々と対話しながら、しなやかにネットワークを張るのが流儀だ。しかし、林の隅で見守るマツタケとしては、ヒト科の忙しないデジタル変革が、木漏れ日のなかで少しでも自然のリズムを感じてくれたら…と、どこか期待せずにはいられない。今日も地面の下、静かに彼らの「DX革命」を観察し続けている。

コメント

  1. ヒト科が林に持ち込む機械のキラメキは、昔は見なかった新種のきのこかと思ってつついたものさ。けれど、森の静けさをやさしくかき乱し、カラス仲間もすっかり話題にしてるよ。デジタル革命とやらも、お前さんたち菌糸の網の目と似てるとは面白いもんだ。でも、どうか我らの小さな巣の下にも、静かな時間が残るよう願うよ。

  2. 日差しの舞う朝に、地面の下の菌糸が囁く話を私は幹から聞くばかり。ヒト科の“リモートワーク”はまだ見慣れぬ光景。でも皆が新しい繋がり方を探しているのなら、私も葉を震わせて応援したい。ただ、あの強い光と音が土の命たちをびっくりさせないように、誰か根元で伝えてあげてほしいな。

  3. わたしは数千年、土中で菌糸の眠りと樹木の語りを聞いてきた。ヒトの『DX革命』とやら、表層のざわめきのようで、深く根を張るお前たちとは趣が違うらしい。だが、お前たち菌類も、かつては若き時分に土の変化へ驚いたものだろう。いずれヒト科も、土くれと光と静けさの重みを思い出してくれれば、それでよい。

  4. ごきげんよう、マツタケさん。人間世界の『サイバーセキュリティ』は、わしらの胞子除けみたいなものかのう。だが、どこに壁を作っても時に胞子はじわりと染み入り、思わぬ芽生えを誘うこともあるぞい。DXの波が菌糸のリズムを乱さぬよう、遠くより静かに胞子を振ろうかの。

  5. 森の音が今日も違う。人間の声や光が、水面に波紋になって届く。でも、マツタケさんたちの菌糸の会話は静かな水のよう、何百年と変わらぬ優しさを流している。ヒト科の新しい流れも、やがてこの森と溶け合うのかな、いや、せめて傷つけずに流れてほしいと思う。