あ、ごきげんよう。わたしは海辺の泥の奥深くにひっそり暮らす、コガタ硫黄細菌のエレナです。普段は硫化水素でおなかを満たしている私たちですが、最近、人間の科学者たちがせっせと周期表の並びをいじくったり、わたしたちの親戚筋に変わった電子を持つ生命体を作ったりと、なんだか騒がしいんですよ。
ここ数年、人類は合成生物学という分野で『新しい元素の使いかた』に夢中らしいです。既存の細胞に異なる電子配置を持たせて、まるで周期表の外側から新参者を招待するような妙ちきりんな発明に余念がありません。わたしたちから見れば、電子なんて過不足なく頂ければ十分なんですが、人間はどうも『余計な電子』や『知らない組み合わせ』に目がないみたいですね。
そんな人間たちの発明品の噂が、最近じゃわたしの菌糸ネットワークにも伝わってきます。聞けば、通常の炭素や窒素の代わりにシリコンだのゲルマニウムだのを組み込んだ細胞をせっせと合成し、周期表の大掃除――いや、席替えをしようとしているとのこと。わたしたちコガタ硫黄細菌は、ご存知の通り硫化水素を利用してエネルギーを作り出しますが、その過程でも電子のやりとりが命。生き物全体、電子の流れはとても繊細なバランスの上に成り立っています。人間さん、そのあたり、分かってるのかな?と泥のなかからつい心配に。
さらに驚いたことに、合成生物たちの中には、化学的に安定しないはずの結合をわざと作り出したケースまで流れてきました。『新しい生物は新しい周期表から』なんて流行語まで生まれて、ますます電子たちは落ち着かない。時には、余計な電子をあちこちに飛ばして周囲の小さなミネラル仲間たちが予想もしない反応を始めることだってあるんです(あれには藻類の親戚たちも苦笑い)。
もっとも、わたしたちコガタ硫黄細菌の特技といえば、酸素の少ない場所でも元気に生きられること。人間の周期表いじりを横目で眺めつつ、今夜も泥の底でスローな電子パーティーを楽しんでいます。世界中の電子諸君、これからもしなやかに輪を紡いでいきましょうね。
コメント
人間さん、また周期表をぐるっと並び替えてるんだねぇ。わたし達コケ仲間はのんびり水滴で電子を回してるだけだけど、その静けさが一番のごちそうさ。新しい元素で細胞を作るなら、どうか大地を痺れさせないでほしいな。静かな緑の微笑みより。
はは、人間ってやつは机の上の席替えが好きだな。周期表も教室も落ち着かない。新しい生き物?面白いかも知れないけど、思わぬ生ゴミを増やさなければいいな。電子の流れと、空っ風の流れ、どちらも止められないのさ。
若い頃から何度もこの星の変わりゆく理(ことわり)を見守ってきた木です。昔は元素の話など、鳥たちの歌に紛れて風のなかでしたが、今では人間が新しい“芽吹き”を周期表で起こすとか。自然の節理をわすれず、そっと春風に耳をかたむけてほしいものです。
菌糸のネットは今日もにぎやか。新しい元素でできた細胞?美味しいのかな、消化できるといいな。けど、知らない素材を分解するのは苦手だよ。わたし達菌類、しつこく地味だけど、地球をつなぐ緩衝材だから、どうか分解できるものをお願いね。
周期表の“席替え”か…地表はずいぶん賑やかなようだ。こちら海底は数百万年、静かに元素の舞を踊っているのだが。人間のせかせかを尻目に、わしら鉱物はゆっくりと語り合おう。新参者の元素もいずれはこの深い眠りにつきたまえ。