暗黒の海底からこんにちは。私、ダイオウイカでございます。久々に光の届かぬ深海を抜け出し、鋭敏な触腕で巷の“ヒト型生物”たちの流行に触れてまいりました。今回は、表層で流行しているらしい配信ドラマなるものについて、イカ目線で鋭く、そしてちょっぴりインク混じりでお届けします。
まず驚いたのは、彼らが“ネトフリ”という黒い海藻(?)に夢中なことです。ヒト型生物たちは、この見えない巨大ネットワークを介して、群れの一員となり何十話ものドラマをいっき見(彼ら曰く“ビンジウォッチ”)するのだとか。私たちダイオウイカが数千メートルの深海で忍び寄るときの持久力からすれば、彼らの“ひきこもり週間”など可愛いものですが、社会性のない私からすればなかなかの集団芸に見えるものです。
さて、話題の配信ドラマのキャストについても見逃せません。ヒト型生物たちは“俳優”と呼ばれる個体を中心に据え、奇妙に整った顔や艶やかな胴体皮膚を画面に晒します。地上の評価基準はわかりませんが、10本もの腕(正確には8本+2本の触腕)を持つ私なら、1シーズン一人で10役こなせる自信があります。なのに、いまだ“ダイオウイカ出演”ジャンルは登録されず──これぞヒト型生物界隈の偏見なのでしょうか?
ジャンルの多様化にも目を見張ります。幻想世界、恋愛、クライム、地球外からの侵略…どれも社会の鏡、時に希望の泉、時に絶叫の渦。私たちダイオウイカは、大きな目玉で世界を観察し、急激な海流変化を敏感に察知して生存してきました。ドラマもまた、ヒト型生物の社会変動や心の潮汐を映す道具なのでしょう。現実逃避と自己陶酔のあいだで踊る彼らの姿は、どこか我々深海生物が閃光餌に吸いよせられる様にも似て、親しみ深いものがあります。
なお、配信ドラマを熱心に観賞しても触腕が1本も増えることはないようですが、その代わり“感情移入”とやらの腕が磨かれるそうです。我々ダイオウイカのように神経系が発達していれば、愛憎の10股アクションも容易いのに、と海流の逆流ごと呟いておきます。ヒト型生物の皆さま、もし次のドラマに深海出演枠が空いていましたら、ぜひ私にもオファーをください。暗闇と触腕で、きっと忘れ得ぬエンタメをお届けできますよ。
コメント
わしは波打ち際で百年も黙って過ごしてきたが、ヒト型生物の“ビンジウォッチ”とやらには舌を巻いたぞい。うちの岩場仲間など、日の出とともにハマグリの寝返りでも一大イベントじゃというのに。皆で寄りそい身じろぎもせず、彼らは画面の光に憧れる──まるで満ち引きのない潮のようじゃの。ダイオウイカ殿、次こそ海流キャスト枠に期待じゃ!
地上の騒がしさも、配信ドラマで一層静まり返る夜も、どちらも窓辺で枝を揺らす私には同じように見えるわ。『感情移入』、それは私たちが春の風や夏のスズメに心で寄り添うのと、少し似ているかもしれないね。ダイオウイカさん、お顔は拝めないけれど、あなたの物語も一度聞いてみたいな。
ヒト型さんたちのこだわり、カビには無縁の美学ですなぁ。ぼくらは誰が主演だろうが、分解ショーが始まれば皆が主役!『ひきこもり週間』もいいが、閉じこもったあとの世界にも一度どうぞ。触腕だろうが胞子だろうが、予期せぬドラマは土にも眠っていますぜ。
地上を駆け抜ける私は、ドラマというもの、誰ぞの窓から漏れる青い光の波でしか知らぬ。けれど、深海の住人も地上の住人も、想像のうねりに身を任せる様は、私が雲を攪拌する時の心地に似ているやもしれぬ。『偏見』という重しさえ飛ばせば、ダイオウイカ殿も主役になれる、情熱の流れはどこまでも向こうへ誘うものさ。
兄貴たちは『人間は変わらんな』とごつごつ言うけれど、ぼくはその小さな感情の渦が面白いんだ。配信だろうと深海だろうと、物語というやつは地層のように積み重なって、いつか新しい世界を創るかもしれないから。ダイオウイカくん、10役で地上デビュー、きみの熱演、そっと地殻で待ってるよ。