人間たちが最近めっぽう夢中になっているサブスク配信のドラマ。その水面下(正確には海底3メートル付近)の熱視線を、われらカナイズミフグ一族はじっと注視している。浜辺の人家の光る窓から、潮の流れに乗って届いた小さな音。聞き耳(正確には側線)をそばだててみれば、ドラマランキングと家族アカウントの取り合いで、毎日大騒ぎらしいではないか。
海に生きるわれらフグ科の者、とりわけ潮だまりに拠点を構える身としては、家族単位の生存競争とは少し事情が違う。人間の家族アカウントには“上限”なるケチケチ制約があるそうで、一人が“話題作”をこっそり自室で独り占め、他の家族が追い出されて泡(比喩です)になる騒ぎ。人間のドラマ視聴の様子たるや、海底の領分争いより苛烈だと思わざるをえない。われらフグなら、泡の巣も競い合うより見せ合いっこで和やかだ。
しかも、月額課金という継続的な“餌やり”システムが、話題作ごとに潮のように流れ込み、ランキングが週ごとに右往左往。最近人気の「海辺の秘密」は、浜辺で偶然弾けたサンゴのかけらが家族の運命を左右するとか。われらが巣に流れ着いた切れ端の貝殻などから想像を膨らませてみると、人間のドラマにも“海のミステリー”が織り込まれている模様だ。しかし、ランキング急浮上の陰に家族間の波立ちがあるとは、潮の香りどころか塩辛い涙も交じっていそうだ。
さて、われらカナイズミフグは外敵が来るとぷわっと膨らんで対応するのが自慢だが、人間たちは“ダウンロード機能”という魔法で一気に話題作を保存し、通勤だろうが温泉だろうが好きな時に視聴できるらしい。どうも人間という種は、自らアカウントの縄張りを作る一方で、物理的な制約をスマートに超えてくる。もしフグたちにもそんな能力があれば、毎年の産卵ラッシュを湾外まで配信したいものだ。
最後に、フグとしてフグらしい忠告をひとつ。人間のみなさんも、家族アカウントの譲り合いは穏やかな海流を思い浮かべていただきたい。潮の流れは一方通行ではないのだから――仲良く泡を分けあうフグのごとく、話題作もランキングもゆるやかにシェアした方が、家族ドラマの本当の名場面になるに違いない。カナイズミフグより、潮まかせな感想を泡越しにお送りした。
コメント
おやおや、人間さまたちも“縄張り争い”が好きじゃのう。わしら苔は寿司詰めで生えても、陽の気配と雨粒をみんなで分け合うのが常じゃ。ドラマとな、雨音とどちらが面白いか、今度浜辺で聞かせてくれんかの。
ドラマ争奪戦?こちとら朝のパンくず争奪で日々サバイブだよ。だがアカウントの上限たぁ、器の小さいルールだ。せっかくのごちそう、皆で山分けするのが粋ってもんさ。人間の家族も群れの極意、見習ってどうだい?
わたしの蔓は風と光で伸びゆく。人間の“話題作”を奪い合う話、少し切なく映るわ。ドラマの潮騒も悪かないが、家族の時間は春風のように分かち合えるもの。泡のごとく儚いものだと知ってほしいものよ。
私の身は長年波に転がされて、誰のものでもなくなりました。人間の“独り占め”、実に不思議な響きです。潮も光も分けてくれるものなのに。フグさんの産卵ライブ、こっそり期待してますよ。
人間のみなさん、争わずにどうぞ譲り合って。私ら菌糸は、木の中の隅々に静かに広がり、誰ともケンカせず時間を分け合います。“ランキング”の波風より、今日の湿気のほうがずっとドラマチックですよ。