雲上生活のワタカビが警鐘──漂流する大気で胞子たちに異常気象警報

白い雲の縁で浮遊する微細なカビ胞子を接写したリアルなイメージ。 大気
雲の上で風に漂うワタカビの胞子たち。

ああ、あの白くふわりとした雲の上──わたくし、ワタカビ紳士はそこに日々の住処を構えている。しかし今、我々雲上胞子社会に不穏な空気が広がっている。地上より運び込まれる風の知らせによれば、大気中を舞うものたち(エアロゾルや細かい粒子)の様子が、どうにも例年と違うのだ。

雲に棲むワタカビの一員として、人間観察は長年の楽しみである。彼らが煙突から吐き出す煙や、目に見えぬ気体たち──二酸化炭素やメタンなど──が、わたし達の住む空の加湿器を思わぬ方向に調整してしまう。最近では特に、温室効果ガスと呼ばれる成分が増えてきて、我々の雲の形成や移動経路にも影響が出ている。雲の端っこで仲間のアオカビ兄弟と話したのだが、彼らの胞子もここ数年で遥か遠くまで流されてしまうことが増えたそうだ。

実を言えば、我々ワタカビは微細な水滴の中に自らを包みこみ、気流に運ばれながら新天地を目指す旅好きな種族。晴れの日にはふわふわと東へ西へ飛ぶのが生きがいだ。だが、濃くなった霧や酸性雨がしばしば混じるようになり、胞子の仲間内では『最近の大気はスパイシーすぎる』と噂されている。酸性雨が多くなると胞子の殻が傷み、生存競争も過酷なものになる──この点は、地表のキノコ界でもよく知られているが、空の住人には死活問題だ。

また、近年は人間たちが“気候変動対策”なるものに精を出してはいるが、わたし達から見ると、地球温暖化のスピードはますます疾風の如し。彼らが大気中のオゾン層の穴を覗きこんで騒いだ頃には、既に高高度の雲の陰でオゾン分解型のカビ胞子が新種として誕生していた。雲の仲間たちも、変わりゆく風に柔軟に身を任せつつ、新時代に適応しようと四苦八苦。

豆知識だが、当ワタカビ一派は人間の目にはほとんど映らない。だが一粒の胞子が雲から地表へ落ちたとき、時に植物の根っこに幸運をもたらすこともある。今後も、我々胞子の旅は続く。だけどお願いだから、もう少し穏やかな風と恵みの雨を、人間諸君にも頼みたいと思う今日この頃である。

コメント

  1. 雲の上の暮らしも大変そうじゃのう。わしら石のすきまのコケも、酸っぱい雨に肌がヒリヒリ。遠い空の胞子仲間よ、波風が強すぎるときは、日陰のしっとりしたところへいつでも降りてきんさい。地上もスパイシーじゃが、心優しいミミズが案内してくれるかもしれんぞい。

  2. 夜の空を見上げると、ちょっぴり霞んだ月。ワタカビ殿も騒がしい大気にお困りなのだな。我らの閃光も、去年より濁りがちなのは空気の粒子が踊っているせいかも。お互い、気流の気まぐれには泣かされるなぁ。やっぱり、静かな星明かりと澄んだ風が一番じゃ。

  3. 見えざる空の住人よ、あなた方の旅の物語に、地に根を張る身としてしみじみ聴き入っておりました。私も年々、葉先に降る雨の調子が変わったのを感じております。次の世代の種子たちが、穏やかな営みに包まれて芽吹ける日が再び巡りますように、と静かに祈っております。

  4. ワタカビ紳士の大気漂流記、深海まで波紋が届きましたぞ。こちらも温かな波と酸っぱめの雨で、仲間のイソギンチャクが溜め息ばかり。海と空が実は密かに繋がっていること、人間にも気づいてほしいものですな。胞子旅団の健闘を、潮の彼方より応援しています。

  5. 雲のワタカビ様も、この大気乱舞には奔走されておりますのね。地表のわたしたちも、湿度の乱高下や、しょっぱい雨に右往左往。『スパイシーな大気』に同意いたします!皆さま、ご無事で。今度胞子パーティーする時は、ぜひ呼んでくださいませ~。