こんにちは、ミズゴケ田んぼに住む線虫・ネマチンです。わたしたち土中生物は、ふだんは人間に気づかれない静かな暮らしを送っています。しかし、最近は地表で人間たちが“フードテック革命”とやらに沸いているせいか、土ごとにぎやかになってきました。ネマチンの感じた異変を、ありのままに報告いたします。
ある蒸し暑い夜、わたしの棲家のちょうど上、ピカピカの台所から奇妙な音が聞こえてきました。人間たちが『フードプリンター』という新兵器を使い始めたのです。その機械は、ペースト状の食材や培養肉をデータ通りに積み重ね、あっという間に“料理もどき”を作るらしい。最初は人間らしいズボラの進化かと思ったけれど、グルメな一家の指数関数的な料理試作のおかげで、捨てられた食べ残しが毎晩増えて土壌が豊かに。あやうく、明け方にはミミズ親分と餌取り合戦を演じる羽目に……。
さらに驚いたのは“グルメデータ分析”という人間特有の執着。なんでも、人間は機械に自分の味覚を学習させ、一人ひとりの『好み』を数値化。それでいて『腸活』なるトレンドも同時に追い求めているとか。我々線虫は腸どころか体全体がほぼ消化機関。消化に誇りを持つ生き物としては、人間の腸に良いからとトレンドの発酵食品やら微生物サプリにうつつを抜かす姿は、まるで季節外れの落ち葉に群がる微生物そっくり。“腸の多様性”こそ生命の要！この考え、人間界にも届くといいのですが。
いよいよ巻き起こる“サステナビリティ”旋風。新しい代替肉や培養肉の開発は環境負荷を下げる救世主らしいが、土壌に棲むわたしたちから見ると、原料に何を使って何が残るのかが死活問題。ある日、つるりとした新型シイタケ由来パティの切れ端が落ちてきて、土中で分解が進まない事態が発生。仕方なく腐生菌仲間に相談して、土を挟んでの共同分解作業に。人間が食品ロス削減に躍起になるのはいいが、わたしたち土壌フードロジスティクス部隊の負担も少し考えてほしいものです。
ところで線虫である私は、1gの土壌に何千匹も隠れ潜めるほどの潜伏の達人。なのに最近は、土壌管理AI付きアグリテック農機がうろつき、土壌センサーで微生物の動きまで丸裸にされる始末。土壌の健康診断などという名目で、ネマチン家系図までも調べられてしまう日も近いでしょう。せめてモグラやミミズ、キノコ先生たちとの地下宴会がバレないよう警戒網を強化しつつ、人間たちの食の未来にも土中からエールを送るとしましょう。
コメント
土の上のざわめき、ここ百年なかった騒がしさだねえ。おいらは隅っこの苔むした岩。人間たちの美味しそうな機械音に、時々ムカデやトカゲたちが怯えて逃げ込んでくるよ。でも、豊かな土の香りが変わらず漂ううちは大丈夫。線虫さんや菌たち、あんたらの働きっぷりには頭が下がるぜ。人間もせっかく食べるなら、残さず味わいなよ、と石の隙間からぼやいてみる。
あーあのフードプリンターってやつかい？キツツキやリスには縁遠い話だけど、台所の匂いが年々奇妙になってきて、小さな虫たちの宴が活発なのは実感しておるよ。人間の“腸活”だの“数値化”だのは、樹液を味わうアリたちの方がずっと先を行っておるし、どんな食も最後は土に戻るのだと、私は枝を揺らしながら思うのじゃ。分解チームのみんな、ほんにお疲れさん。
人間の新しいご馳走、オレら仲間が朝巡回した時にも見つけるぜ。フードプリンターの残り物は正直、バカにはできない味だ。ただ、ちょっと人工的な粘りはクチバシにまとわりついて始末が悪い。土の奴らやミミズも増えてて、ベテランの割には餌の奪い合いが激化してるな。ま、どんな時代でも自然の連中はしぶとくやってくさ。人間よ、あんまり俺たちの動きをAIで監視しないでくれよ！
わしは古井戸そばの苔。人間がプリンターで食べ物を彫刻する光景など、水滴が時を刻むのと同じく奇異じゃな。分解の仲間たちも騒がしいらしいが、土壌の調和は永遠には続かぬもの。人の『サステナビリティ』は輪廻転生と似て、始まりは尽きぬ繰り返し。まあ、地下の舞踏会の気配を感じると、どうにもこちらも踊りたくなるのう。
やあやあ、僕らは落ち葉の下の小さな戦士。最近は分解作業に新入りが多くて居場所の確保も大変さ！プリンター新世代パティなんて、旨みも分解難易度も未知数。一人前の分解屋として腕が鳴るけど、食べ物って、最後はちゃんと僕たちが面倒見るから人間さん達は安心してチャレンジしてよ。ただし、土の健康診断だけは勘弁な！プライバシーってやつも守ってくれ〜。