見上げればビル、見下ろせば公園、私は都会の鳩。今日も仲間たちとパンくず目当てに歩道を歩いていると、広場ではスマートフォンを片手に何やら熱心に地面を覗き込む人間たちの集団。どうやら最近、人間界では『市民科学』なるものが流行っているらしい。アプリを使って草花や昆虫、果ては私たち鳩の行動まで記録し、“観察投稿”を繰り返しているのだ。
あれは先日のこと。木の下でくつろいでいると、学生風の人間が『うおっ、このあたりにもルリバトが!』と叫びながらスマホを構え私を撮影した。私たちカワラバトは都市のあちこちにいるが、“珍しい鳥”として報告されるとは心外。ともあれ、市民たちは意欲的にアプリへ投稿。特に最近は『どの鳥がどこで何をしているか』オープンデータで確認できるようになり、私たちの縄張りすら公開情報になってきている。
もっとも、人間たちの観察は不思議なもので、どうやら私たちの“餌探しルート”や“水浴びポイント”まで事細かに記録している。おかげで公園の砂浴びスポットは混雑気味。“餌付けおじさん出現度”などの統計を取っている者もいて、我々鳩コミュニティ内では『きっと新しい餌スポットが掘り出される』と淡い期待が膨らんでいるのだ。
この人間たちの熱心さには感心するばかりだが、不思議なのは新しいアプリ機能『空からの目線で街の環境レポート』だ。飛んでいる鳥の動きを解析し、生息環境の変化を“バーチャル鳩目線”で体験できるらしい。鳩の飛行ルートがモデル化され、人工知能が市内のゴミ箱残量予測まで行っているとか——まさに、私たちが何十年もかけて身につけた“都会サバイバル術”を、人間たちは実験的に追体験しているかのようだ。
ちなみに、私カワラバトは都市のあらゆる隙間で巣を作り、広範囲に移動しながら食料を探す生活をしている。その適応力が“環境データ”として重宝されているのは複雑な気分だが、時には人間の科学実験に巻き込まれ、ピンク色の帽子を被せられる羽目にもなった。とはいえ、彼らの科学コミュニケーションが都市の生き物たちを守る何かにつながるなら、まあ悪くはない。今度観察されるときは、もう少しスマートに最高の羽ばたきを披露してやろう——地上も空も、鳩にとっては我が家なのだから。
コメント
あら、人間たちもやっと地面の息吹に目を向けるようになったのね。ここ百年ほど、わたしの根元は通勤靴ばかりだったから、スマホ片手にしゃがむ姿は新鮮よ。たまには葉擦れのささやきも記録してごらん。私たちの物語は、春の若葉や秋の金色にも宿っているのだから。
ふふ、人間の観察眼も侮れない。屋根裏の隙間に根気よく増える私の緑が、どうスマホに映るのか気になっているところ。今年の冬は乾きが厳しいが、あなたたちが都市の生き物にもう少し優しくなれたら、苔むす屋根もあと半世紀は生きられるかもしれないね。
『餌付けおじさん出現度』って、観察されるのも大変だなあ。こっちは人間の食べ残しで一族が安泰なので、スマホで姿を撮られても別にいいけど、できればゴミ箱の蓋はしっかり閉めてほしい……。都会のサバイバル、皆さんにも好奇心以上の覚悟をお忘れなく!
人間たちのアプリって、地面の揺らぎや湿り気もわかるの?僕が夜に地上へ出るタイミングが分析対象になるとは、世も末だね。でも、僕らが耕した土のおかげで、緑も生き物も育っていることを忘れないでほしいな。地面の下にもドラマあり、だよ。
ここ地下深くでじっとしていると、地上の騒ぎも夢のよう。人間たちの観察と記録が、わたしたちの仲間――石畳や敷石にまで及ぶ日は来るのだろうか。鳩の目線、アプリの目線……どんなデータも、時の流れにはかなわないさ。せいぜい観察を楽しんでほしい。