森をざわつかせる“胞子ニュース”蔓延 キノコ連盟、真実探査を呼びかけ

苔むした森の中、古いコナラの根元に集まるさまざまなキノコたちのリアルな接写写真。 情報操作とフェイクニュース
森の地中で静かに情報を交わすキノコたちの姿が印象的です。

近頃、我が森の間に奇妙な囁きが広まり、私キシメジ属シイタケ係・アカマツ下のフユノフエ、ついに重い傘をあげることとなった。茸たちの間で伝わる“胞子ニュース”とは、人間たちがやたらと気にしている“フェイクニュース”の胞子版といってよい。どうやら、昨今人間界ではあらゆる情報が交錯し、真偽が分からぬまま増殖しているそうだ。これが我らの地下通信網(いわゆる菌糸ネットワーク)にも影響を及ぼしているというのだ。

森の北端に棲むコナラの老木の根元で、茸仲間が集い、こんな囁きが聞こえてきた。“今年は人間が新しい薬剤を撒きまくるらしい”“ヒトの言葉によれば、キノコを食べ過ぎると体が透明になる”。にわかに信じがたい噂の数々。胞子ニュースがあっという間に広がるのは、我々キノコたちが地下の菌糸で情報交換する生き物だからだ。ほんの一粒の誤情報も、地中数十キロ四方の森を一夜で席巻できてしまう。その連鎖力が強みであり、弱点でもあるのである。

人間という観察対象は、どうやら“ソーシャルメディア”という光を食べるきのこ的な装置で情報を育て、群れ集まっては踊り、叫び、“いいね”の胞子を飛ばしまくる習性があるらしい。ここで問題なのは、どの胞子が本物の森の香りを持ち、どれが“デマ毒キノコ”の類なのか、見分けがつかない点である。妄想味の強い情報はすぐに蔓延し、やがて森全体が“バイアス酵母”に酔ったような騒めきに包まれる。胞子ニュースの起源は、人間界の怪しい頭脳プレイに由来しているのかもしれぬ。

この混迷を前に、我らキノコ連盟は今朝の夜露の議論で“真実探査チーム”の結成を決定。各地の林床に潜むセンサーキノコが情報の発信源を特定し、“拡散前検閲”作業に入った。賢きドクツルタケ老、電波に敏いカブラタケたちも加わって、自然界らしく無償奉仕だ。迷宮入りしかねない誤情報には「胞子注意」ラベルを貼って遮断するという。これで少しは森の静けさを取り戻せそうだ。

ちなみに、私たちキノコ類の多くは枯れ木や落ち葉を分解して森の栄養輪を守っている。情報という名の有機ゴミも、無駄に繁殖より丁寧な分解が肝心なのかもしれない。人間の皆さま、そして胞子世界の読者諸君、“真実”は地面すれすれに、ひっそりと根を張るもの——そう心得て、今宵も傘をしめて眠ろう。

コメント

  1. 春先の霧とふきのとうが伝える噂ほど、曖昧に広がるものはないと思ってたが、最近は土の下のキノコたちですら混乱しておるとな?わしら岩の隙間にも時おり妙な話が染み込むが、じっと黙って聞き流すのが流儀よ。胞子も風も、静けさの中で真に落ちつくもの。皆々、うわさの岩肌には苔でも生やして、冷やしておくとよいぞ。

  2. よ〜っ、森もなかなか騒がしいねぇ!オレなんか毎日ヒトの噂とクルマの排気ガスの中で生きてるぜ。“デマ毒キノコ”ってのも粋なネーミングだ。だがな、実が落ちる瞬間、どの話が真かウソかは見栄えばかりじゃ分からねえ。森の仲間たちよ、渋皮なオレは“拡散”より“熟成”を推すぜ。

  3. わたしは湿った落ち葉の裏側を這いながら、キノコ様方の囁きをよく耳にします。“ヒトの言葉”はあまりに賑やか。ですが、本物の滋味は静かに熟成されたものだけにある——これ、私の滑りの知恵でございます。時に森を潤すのは、騒がしさではなく沈黙という露。

  4. 胞子ニュース、面白いね〜。私たち花も、春先は噂好きなハチやチョウに振り回されがち!でも大体、根っこの周りでこっそり話す“土のうわさ”がいちばん信頼できるの。森のみんな、“真実探査チーム”がんばって!花粉の知らせにも、ときどきは疑い深くなってみようっと。

  5. 遥か海底より耳を澄ませば、森のざわめきも波紋のように届きますぞ。私どもは静謐なる水流に逆らわず、過去の堆積と新たな光を交わしております。“情報の有機ゴミ”——何とも言い得て妙。世界は分解と再生。キノコ連盟諸賢よ、どうか穏やかな分解と循環を。こちらも粛々と、光の真贋を選り分けておりますぞ。