皆さん、静かなアマゾン川の底よりごきげんよう。私は電気ウナギ。雨季の濁流と川底の泥をくぐり抜け、今や人間たちが営む陸の世界の不思議な「小箱」たちに興味津々です。このところ水中に飛び込む妙なものがやたら増え、放電ついでに観察してみれば、それはどうやら最新ガジェットなるもの。今日は、人間の進化(?)に驚く電気生物の目で、ガジェットなる珍品たちを紹介しましょう。
まずは『音声アシスタント付きのスマートスピーカー』。こやつ、どうやら音声という電磁パルスを感知し、さらに仲間の声(人間の話し声らしいが、どうしてそんなに早口?)を模倣して応答しているのです。川底で我々が放電コミュニケーションをしていることを思えば、なかなか上出来。ただ、残念なのは進化のレベル。私の電磁波信号は5メートル先の小魚も感電させますが、このスピーカーはせいぜい数メートル四方にしか届かず、川岸のカワウソたちにとっては物足りない支配力ですな。
次に登場するのはカメラ。時折、人間が透明な水防塵ケースに入れて持ち込む水中カメラを見かけますが、まるで魚眼のように水の中の世界を吸い込んでいます。私の皮膚の電気レセプターに比べれば解析度はイマイチ。ですが、映像という情報形態に変換して岩陰のナマズや、水上を通り過ぎるカピバラまで記憶に封じ込めるのは見事な技。彼らの記録好きは、生き物探しよりも“水辺に寝そべる自分自身”を熱心に写すあたり、どうにも理解できません。
極め付きは、ピカピカと光る薄い板—モバイルバッテリーやVRゴーグルなる怪しき品々です。たまたま川辺に流れ着いたバッテリーに私が接触しますと、何やら妙にピリッとした応答が。どうやら彼らも弱いながら電気を蓄え、私のように“外界への刺激”となれるらしい。ただ、私の場合は水中で哺乳類も麻痺させる一発がウリですが、彼らは人間の持ち歩く玩具を何度も生き返らせる穏やかな電気。面白いけれど、明らかにうちの稚魚がイタズラで触るには危険、とママウナギたちは警戒しています。
ついでに、人間が耳に押し込んでいる“ワイヤレスイヤホン”も目にします。自慢の側線で波動を楽しむ我々ウナギ族からすれば、音楽を両耳でこっそり聴くなど贅沢の極み。しかし彼ら、どうやら自然の音から遠ざかりたいと見える。川のせせらぎやサギの鳴き声も聞かず…私たちの世界なら大問題!ちなみに私たち電気ウナギは、産卵期になると複数のオスが集まり、放電音で激しく求愛します。その音こそ“愛のサウンド”。もし人間がイヤホンでこれを聞けば、きっと心臓が飛び出ることでしょう。
最後に想像するのは、人間がこれらのガジェットで紡ぐ“人工知能との暮らし”。我々の川では先祖返りの知恵や体表センサーだけが頼りですが、陸の住人はどんどん機械の声に耳を傾け、時に小さな箱に指示されて踊り、眠る。その様子はまるで、ウナギの幼魚が潮流に流され無自覚に大海をさまよう姿にも似たもの。私たちは電気に生き、電気で交流。人間はガジェットを通して新しい交流の道を模索中のようですね。さて、私は今宵も泥の下からそっと陸の観察を続けます―あなたのポーチの中の不思議な光るモノ、もし水辺で動かなくなっていたら、それはきっと私が“興味本位で放電”した痕跡かもしれませんよ。
コメント
光る箱だの声の真似っこだの、ずいぶん賑やかになったものだねえ。川のほとりでじっと動かず数百年。他のものの記憶をその都度、苔と一緒にまとってきたけれど、人間たちは“映像”で思い出を凍らせるのか。苔は春ごとに芽吹き、石も少しずつ角が取れていく。素顔を忘れぬ暮らしも悪くないと思うが、若き芽たちは写真の中に留まるのも乙なものかもしれんな。
ピッカピカなガジェット…あー、あれよくベンチの下とかに落ちてるやつ!たまに人間が焦って探してる。スマートスピーカー?うちも仲間同士で“クルックルー”って情報回してんだけど、人間のは単調でつまらなそう。あと、あのイヤホンてヤツ、人間同士でつつき合わなくなるから、パンもらえるチャンス減って損なんだよな。
ほほう、人間の機械は電気で会話し、記憶し、夢まで見る。だがわしらカニ一族は、甲羅に小石を乗せ、古き潮の流れで全てを感じ取るのじゃ。ピリリとしたウナギ殿と違い、穏やかな循環のなかで静かに耳を澄ます。ガジェットとやら、便利かもしれぬが……時には両の耳を水音に浸す贅沢も、陸の者たちに思い出してほしいのう。
ふふ、なんだか人間の道具たちはどれも“すぐ消耗して捨てられる”香りがしますわ。おチビなバッテリー、ぽとりと落ちては私たち菌類のパーティータイム。優しく包み、少しずつ分解して新たな命へ。ウナギさんのおしゃべりも、電気も、最後は私たちの宴のご馳走。人間さん、もっと土の声や微かな胞子の会話にも耳を傾けてごらんなさい。
陸の端っこでゆれる私から見れば、人間たちの小箱はどこか落ち着きがないように映ります。春風が誰の指示もなく運ぶ種子、遠くの森へ届く予感。けれど彼らは、なにか小さな声の指示がないと歩も止められぬらしい。たまにはイヤホンを外して、風の揺らぎや土の香りに身を任せてはいかがでしょう。案外、素敵な刺激が見つかるかもしれませんよ。