こんにちは。私は池のほとりに根を張るヒメスゲ(小型のカヤツリグサ)の一本。今朝も朝露を転がしながら、最近人間たちが池周辺で繰り広げている“謎の光る物質”観察に耳をそばだてております。なにしろここは季節ごとに新種の膜や粒子が敷かれては、あっという間に違うものに塗り替えられる科学素材実験のメッカ。ヒメスゲとしても毎日が新鮮な驚きでいっぱいです。
先日は池の端で巣を作るドロバチたちが、巣に運んだ泥粒が虹色にきらめく光景を目撃しました。何ごとかと思いきや、どうやら人間たちが『量子ドット』と呼ぶ極小粒子付きの泥を撒いた結果、巣穴が昼も夜もポワンと発光するようになったのが原因のようです。ドロバチ本人たちは新しいトレンドかと喜々として採用していましたが、サワガニのご婦人方曰く「眠れる夜が激減した」とのこと。ちなみに私ヒメスゲも茎の先がピカッと光る羽目に。まったく、科学と自然のせめぎ合いはいつも波乱含みです。
人間たちは池の浅瀬にぶ厚い透明な薄膜を張り、上を頻繁に歩き回って摩擦のデータを集めたり、何やら電気を通す実験に夢中でした。透明で導電性があるというこのスマート素材、葉っぱの私たちには眩しすぎてたまりません。歩きすぎて汗をかくのかパンプス(これも観察済み)がびしょびしょのまま、薄膜の上で滑りそうになっている様子も頻発。「自己修復材料だから破れても大丈夫!」と叫んでいましたが、私たちからすれば『やれやれ、地面はそんなに丈夫じゃないぞ』と内心苦笑い。
セラミックスを撒いた直後、池の縁で不思議な現象も観察されました。人間が何か白い高分子の粉をぱらぱらと撒いたら、至るところに“フェーズ変態”という現象が発生(自称:研究者談)。なんでも、液状だった泥がみるみる硬く、頑丈になったのです。おかげでドロバチの巣づくりは助かったものの、池のヤゴたちは“故郷のぬかるみロス”で途方に暮れる始末。生態系としても、硬すぎると根を張りにくい——私ヒメスゲは昨夜、控えめに根の先を伸ばしてみたものの、案の定ちょっと削れてしまいました。
とはいえ、人間の材料科学好きには毎日あきれるばかりです。とくに“自己修復”なる新機能、高分子の粘り気やら分子のくっつきやすさをうまく活かして、傷つけても自分で直るらしいですが、そのメカニズムたるや私のロゼット葉なら三回枯れ変わっても理解できそうにありません。でもまあ、彼らが夢中で映る池面にたむろしているうちは、ヒメスゲの群落としても絶好の休憩タイム。この静寂が、ほんのり光る茎の先と一緒にしばし続くことを祈るばかりです。
コメント
池の端っこでじっとしてると、最近やけにピカピカした泥粒が増えた気がするんだよね。朝日に照らされる虹色の粒たち、昔の素朴な茶泥がちょっと恋しいなあ。でもまあ、ドロバチたちが喜んでるならよしとするよ。そうそう、透明なあの薄膜、ぼくら岩たちにはひんやりして悪くないけど、人間たちのパンプスは本当に滑るから気をつけて!
みんなが『フェーズ変態』って騒いでるのを聞いたとき、また人間の悪ノリかと思ったさ。泥のぬかるみ、あれはオレたちが育ったぬくもりなんだ。硬くなりすぎても居場所が減るだけだよ。ほんの少しでいい、あの昔みたいなやわらかい底床、夢見させてくれないかな。
透明な膜とか光る粒子とか、まあ人間って発明が大好きだね。おかげで最近、昼でも夜でも明るくて、発芽のタイミングが狂いがち。落ち葉たちは「光合成にはいいかもね」なんて冗談言ってるけど、ぼくの胞子は眠る暇が減ってヘトヘトさ。自己修復の技術、もし分けてもらえたら、ぼくももう少し長生きできるかな?
最近あの新素材、なかなか刺激的でビビッとしちゃう。導電性の薄膜って聞いて、ちょっとお味見してみたけど……うーん、ピリッと来るくせに、泥より栄養が少なくていまいち。でも、人間たちが次にどんな『実験』を持ち込むか、ぼくら微生物連中の間じゃ密かなトトカルチョだよ。
うちの若い枝たちが『最近の池は夜も昼もギラギラして眠れない』って文句ばかり。わしの時代は、夜の闇に包まれてみんな静かに夢を見ていたものさ。人間の“自己修復”、わしの冬芽たちも似たようなことをしているが、土や水にも寝るタイミングはほしいんじゃ。時には、少しの闇=休息も実験のひとつと思ってくれぬか。