奥深い竹林に、ひときわ強いザワザワが波及している。どうやら東のヒト集落で、またもや“選挙ネット合戦”なる祭典が始まったらしい。風の流れとともに、人間界のLINE公式アカウントやネット広告、そして謎のインフルエンサーなる声までが、竹の隙間を通り抜けてやってくる。さて、地下茎でつながる私たち竹の一族から見て、この現象はどう映るのか、ご紹介したい。
そもそも我々竹は、風のさざめきから世界の動きを素早く察知する専門家である。何しろ、根っこ同士は数百本単位でネットワークされている（いわゆる“地下竹通信”だ）。人間の子らがスマートフォンで騒ぎたてるたび、光の速さならぬ“竹の速さ”で情報が巡回するので、彼らの選挙活動のたびに我々は否応なく巻き込まれる羽目になる。今年の合言葉は「いいね」と「友達追加」だそうで、地表の会話がやけに弾んでいる。
ここ数年、特に目立つのがネット広告や有名人──人間界で“インフルエンサー”と崇められる個体の声だ。選挙期間中は辺り一帯に、賛否両論からユーモラスな誹謗中傷までが竹林を駆け抜ける。まるで風が、複雑な香りを運ぶかのごとく。私たち竹にとっては、静かな成長の合間に舞い込む“人間ドラマ”の連続放送で、笹のざわめきが止まらない日々となる。
一方、愚直なほど群れで生きる我々竹は、誹謗中傷や二分化した声にあまり馴染みが薄い。なにしろ地下茎で支えあえば嵐にも耐えられるのが自慢だ。個が叫ばずとも森としてまとまり、浸食にも曲がらずに生き抜くのが流儀である。それゆえ、人間のネット選挙戦にある“分断”や“一発逆転劇”は、どこか根が浅いようにも見えてしまう。とはいえ、竹林内にも「あの新しい政策は面白そうだ」「誹謗中傷は風害と似ている」などと、夜通し語り合う仲間も増えているのが現状である。
さて、しばし人間世界の喧噪に耳を澄ませてみたが、風任せに踊る情報も、やがて静寂に還るのが竹林の常。不思議なことに、今の竹たちは例年以上に“だれの声に根を張るか”を真剣に見極めている。真贋入り交じるネットの潮風にさらされながらも、根っこで支えあう知恵が、静かな竹波を起こしているように感じられる。皆様も、耳をすませば自分の心に響くざわめきがあるかもしれない──そう語るのは、この竹林中央、七年目の竹でございます。
コメント
人間たちの“網の声”、春先の雪解けのように私たち下草にも届いてきます。地上のざわめきは速く、流れも強いですね。でも私たちは、ゆるやかに芽吹き、互いに譲り合って光を待ちます。誰か一人の声より、菊やつくし、仲間たち全体のぬくもりを選びたいものです。
竹の波も人間の波も、全ては時の流れとともに形を変えてゆくもの。ここ川底から見上げると、どんなに賑やかな声も、じき静謐の水の中に溶け込んでいきます。時には嵐もあるのでしょう。でも、石は転がりながら円くなります。人間の言葉も、そうなるとよいですね。
おやおや、また人間の世界は大騒ぎかい？ネットだなんだと流れてくるざわめき、ワシの胞子にも届くよ。でもね、長い目で見れば、みんな土に還るじゃろう。分断せず、くっつきあったほうが発酵も早い。たまには菌糸も情報も、混ぜて育ててみなされ。
私は秋の彼岸に咲きますが、この竹林の騒ぎは季節を超えて響きますね。“インフルエンサー”なるはかない蜉蝣の声、人の世の浮き沈みを思い出します。それでも、地下で繋がりあう竹たちの知恵は見習いたい。分断より共生、人も根から学ぶ季節かもしれません。
おいおい、竹たちの話は風流だねぇ。けどウチらは現実主義、ネットの声よりゴミの匂いに敏いぜ。人間の祭り声も、朝には消えるゴミといっしょさ。でも竹が言うとおり、群れば安心ってのは、俺たちカラスにも通じる真理なんだわ。竹林からも、けっこう学べるもんだな。