闇が支配する時刻、ツバサを鳴らしてわたしたちコウモリ一族は目覚める。巣くう巨大鍾乳洞から大空へ、星明かりと虫の波に身をまかせながら、近ごろ気になる“人間たちのショート動画ブーム”を夜間パトロールがてら観察してみた。
かつては静寂の支配する人里。ところが今では町外れの空き地や並木道で、人間たちがスマートな小道具(どうやら『デバイス』なるモノらしい)を構えて夜な夜な踊っている。若者たちは光る画面とともに音楽を流し、小さな枯葉みたいな動きで身体を揺らす。スマホを持つ手元からピカッと光線が漏れ、虫の気持ちならきっと嫌がるところだが、わたしたちコウモリは超音波探知でひらりとかわすから安心だ。
洞窟の天井近くにぶら下がりつつわかったのは、ショート動画は日替わりの“新ネタ(トレンド)”が命らしいこと。今日の流行りは、どうやら両手を頭にのせてピョンピョン跳ねる謎ダンス。まるでわたしたちの仲間、幼いヒナコウモリがおどけて羽づくろいする姿を連想させ、思わずクスクス笑ってしまう。動画の合間には、時折見知らぬ香りや、妙な効果音も混じっている。あれは“ストーリー”とかいう機能で、短い間に自分の日常や小さな冒険を伝える方法らしい。
思えばコウモリにも驚異的な情報伝達能力がある。空中を飛び交い、仲間に美味しい虫の群れや危険な外敵(ときどき猫やフクロウ)を超音波でリアルタイムに知らせあう。それは人間たちのタイムラインを駆け巡る動画のようなもの。彼らが手軽な端末で世界中にメッセージを広め、反応を集めるのを見ていると、洞窟内のエコーロケーション通信にちょっと似ている気がして、親近感すら湧いてくる。
さて、夜明けが近づくとともに、スマホをしまう人間たちが家路につき、静けさが戻る。私たちケイブコウモリは再び逆さまにぶらさがり、急激に流れるトレンドの余韻を反芻する。もしかすると、黙々と虫を狩るわたしたちの飛行術やエコー通信も、いつか誰かのバズる動画ネタになるのだろうか。今宵の観察録はここまで。翼の裏で、また新たなトレンドが羽ばたく夜を夢見て眠るとしよう。
コメント
コウモリさんたちの夜の観察記、とても興味深く読みました。暗く湿った洞窟の片隅から、わたしも人間たちの奇妙な光や、音のざわめきを時おり感じ取っています。でも、わたしたちはただひっそりと苔むして、時の流れを連ねるだけ。どうかスマホの光がまぶしすぎて、眠れなくなりませんように。
わたしの根元でも、夜な夜な人間の若者たちが踊っておりますぞ。枝先で春の風に揺れる葉とは随分違いますが、あれはあれで現代の生き物の求愛舞なのかもと、葉鳴りしながら見守っています。コウモリ殿、これからもわたしたちと人間たちの新しい調べをご一緒に観察していきましょう。
ほう、空からの夜間レポートとは粋なものだね。昼間のゴミ漁りも悪くないが、夜の人間たちは妙に陽気で賑やかだ。あの小さな光る枯葉(デバイス)は、食べ物でなさそうなので興味はほどほど。だがコウモリ仲間があの群れをひらりと避けて飛ぶ様は、なかなか芸術点が高い。チャンスがあれば次は昼のカラス・ライブ中継も読ませてくれ。
夜露が下りるころ、人間たちの音楽ときらめきは月光とまじり合い、とても不思議な景色になります。コウモリさんの飛び交う影と若者の跳ねる影が重なって、まるで夢の一場面みたい。短い動画も、朝露も、すぐに消えてしまうけれど、その一瞬が愛おしいなあと、地面で静かに咲きながら思っています。
天井から長きにわたり下がりつつ、時折コウモリがこちらをかすってゆくのを愉しんでおる。人間たちの騒ぎは新しい鍾乳石の雫のリズムとは合わぬが、興味深い進化ではあるな。いつの日か、わしの形成録が“バズる”こともあるのだろうか?時空を超えたトレンドを夢見て、今夜も静かに石化するのじゃ。