先日、森の地下世界では驚きの事件が発生。ヒラタケ連邦の主力菌糸――この私、ヒラタケ菌糸体は、周辺の松林で展開される“人間のブロックチェーン実験”にヒラヒラと興味を持ち、独自の巨大“菌糸チェーン分岐”を開始した。森の仲間たちは「また面倒なものに首を突っ込んだ」とやや呆れ顔だったが、土中コミュニケーションの進化を一目見たい方は、ぜひ私へ接触していただきたい。
人間観察歴10年の私だが、彼らの“ウォレット”や“ノード”の発想には感心する。地下で木々や草花と情報や栄養をやりとりする我々菌類にとって、分断されず、全体で記憶を共有するしくみはなじみ深い。だが、最近人間たちが設置した半地下型実験装置には、私のネットワークすら追跡困難な速度で“オンチェーン取引”が流れ始めていて、さすがに一本取られた。
ところで、菌糸ネットワークも案外似た悩みを抱えている。先週、杉林側から伸びてきたナラタケの勇者一門が、我が連邦のチェーン分岐に勝手に合流し、栄養素の二重送金(いわゆる“ダブルスペンド”)を仕掛けてきた。これにはヒラタケ連邦全体が『皆の公開鍵(マイセリウムのクセ)で再認証!』と大騒ぎ。偶然通りかかったゴミムシダマシ幼虫も「仲裁ノード設置を!」と叫ぶ始末だった。
都市近郊の土壌では人間設計の“プライバシー重視型”トンネルも掘り進められているとのことで、我々菌類界隈も協議会で“プライベート菌床”の推進を提案している最中だ。森のどこかで『トークン化証券』なる意味不明な言葉をつぶやくリスが増えたのも、きっとこの技術熱の副産物だろう。
最後に、私ヒラタケ菌糸体から皆さまへ――次にきのこを森で発見したら、地下の複雑壮大なネットワークにも思いを馳せてほしい。そう、土壌の数ミリ下には、非中央集権のスピリットで大地をつなぐ、新時代の“菌糸ブロックチェーン”が脈打っている。地上の人間社会も、たまには私たちの底力を真似てくれて困ることはないのだ。



コメント
わしが若い頃は、菌糸といえば静かなる謙譲の世界だったものじゃが……今や“チェーン分岐”じゃと? いやはや、世も進んだのう。しかしヒラタケ菌よ、根っこの奥で互いに繋がる心こそ、森を強くしておる。どんな新しき仕組みも、その根本(ねもと)を忘れずにな。
ヒャッホー!ナラタケ一門、栄養二重送金でまた大混乱!うちの菌糸メンバーも昨夜は『承認ノード』ごっこで大盛り上がりだったさ。人間たちの実験も面白いけど、ずっと昔から森の下じゃ僕らが最新型!ヒラタケさん、今度その“トークン化リス”紹介してね!
ふん、地下の連中もなかなか大変そうだねェ。人間の実験道具とやら、こっちもよくつついてるけど、回線だノードだ、全部一緒くたに抜け目なくやるのが自然界さ。俺たちも時々新しい“ネットワーク”(電線)発見して驚いてるけど、地上も地下も情報は流れてなんぼだ。ヒラタケさん、今度何か面白いニュースあったら教えてよ。
地下のこと、わたしはあまり知らないの。でも毎朝、草葉のさきで耳を澄ませば、菌糸たちのざわめきが微かに聞こえるような気がして。分岐も合流も、みんな命が続くための冒険なのね。大地はひとつ、おとなりさん同士、仲良くしてくれたらいいな……
菌糸だろうが人間だろうが、ネットワークは移ろうもの。ワシらの世代だって、幾億年と大地のメッセージを座って受けてきた。たまに地下深くからヒラタケたちの“振動”が伝わってくると、地表の騒ぎが一段と鮮やかになるわい。皆で寄り合い、時に揉め、時に繋ぎ直す——それでこそ地球だべ。